至誠にして動かざる者は未だこれあらざるなり

ここ数日、ブログ主は積み史料の整理に悪戦苦闘していますが、偶然にも興味深い記事を発見しましたので、試しに全文を書き写しました。それは10月27日付琉球新報08面の “対話は希望” と出した論説で、我が沖縄における明治以来の伝統的発想が、こんな形で継承されているのかと、驚きを覚えながら写本しました。

記事内容については、大雑把に纏めると、平和を実現するために、立場の違いを超えて対話を進め、県民一丸となって戦争を止めようというありきたりの内容ですが、試しに全文をご参照ください。

対話は希望

神谷美由希 ゼロエミッションラボ沖縄共同代表

私は刻々と戦争が近づいている危機感を感じている。このまま私たちが行動に移さなければ最悪な事態になりかねない。その危機感から沖縄対話プロジェクトが始まった。15日が発足集会だった。台湾有事や南西諸島有事を決して起こさせてはならないと考える沖縄の市民が、政治的な立場や意見・思想の違いを超えて対話していこうとする企画だ。クラウドファンディングも実施している。

まず沖縄県内で、保守や革新、ネトウヨなどで、争っている時間はないと私は思う。私は終わった選挙で、ある話題について意見をだし問いかけた。

100人以上の方が自分の意見を返してくれた。理解できることが多く、多様な意見を聞くことの重要性を学んだ。多くの人は対話したいのではないかと感じた。文字だけの対話には限界があると思った。誤解されることも多い。だからリアルで対話する必要がある。ぜひ話し合いしたい方たちは、このプロジェクトに参加してほしい。

沖縄を良くしていきたいというゴールは同じはずだ。だから理解し合い対話で対立を乗り越えよう。早急に県民は、みんな戦争に反対だと主張して台湾、そして中国、アメリカと対話していかないといけない。

沖縄県民は政治的にも島ぐるみ闘争や建白書など一致団結することが得意だと私は思う。平和外交が大事だと言うと必ずお花畑だと言う人もいるが。圧倒的な軍事力を持つ中国に戦いを挑むことの方がお花畑だと言いたい。その上、アメリカが援助してくれるかは不確かである。

戦争で誰かが命を落とすことはあってはいけない。沖縄の先輩方はもう既に戦争を止めるための集まりを開いて活動を頑張っている。私たち若手も今立ち上がらなくてはいけないと思う。保守革新、全世代で協力して戦争を止めよう。

この論説の興味深い点は、思想信条の違いを超えて対話をする根拠に “性善説” を用いている点です。具体的には、人間の本性は「善」だから、たとえ立場が異なっても “まごころ” を持って話し合えば、お互いに通じ合うという、いわば「至誠天に通ず」の発想が見え隠れしています。

「至誠天に通ず」の元ネタは、孟子離婁章句上12の一節で、試しに下記引用を参照ください。

是の故に誠は天の道なり。誠を思うは人の道なり。至誠にして動かざる者は未だあらざるなり。誠ならずして未だ能く動かす者あらざるなり(是故誠者、天之道也、思誠者、人之道也、至誠而不動者、未之有也、不誠、未有能動者也)

孟子の時代の “誠” とは何ぞやとの哲学的議論は置いといて、現代では 「誠=まごころ」の理解が一般的です。さらにまごころには承認欲求など “私心” が排除された内面の良心であることは言うまでもありません。

実は性善説に基づく対話の推進は、明治以降の我がりうきうインテリたちの伝統的発想なのです。代表的なのが琉球新報創刊に関わった太田朝敷先生です。「まごころをもって接すれば、きっと分かってくれる」との発想は、明治の啓蒙思想と合体して、当時の論壇に極めて大きな影響を及ぼします。

戦前だけではなく、例えば志喜屋孝信さんや、当間重剛さんら、アメリカ世のリーダーたちも、「至誠天に通ず」の発想で、対話を重視する傾向がありました。なお神谷美由希さんは、論説内で使用する語句から推測するに漢学の知識はあまりないと思われますが、それでも発想の根底に “性善説” に基づく対話重視の姿勢が見受けられるのは実に興味深いと言わざるを得ません。

ただし、性善説には見過ごせない欠点もあります。「至誠天に通ず」は対偶を取ると、「天に通じないのは誠に至ってないからだ」となってしまい、自分自身を必要以上に責めてしまう傾向があるのです。そして必要以上にストイックになってしまい、回りから “浮いてしまう” という、いわば「水清ければ魚棲まず」の状態に陥ってしまう可能性があります。

それ以上に厄介なのが、世の中には「誠」に欠ける人物がいることを想定できない点です。これは性善説の大弱点であり、儒教ではその弱点の克服のため、為政者(リーダー)たちに “至誠” を強要します。つまり「リーダーが誠であれば、草が風になびくように、民を誠に導ける」との発想ですが、我が沖縄では、

酔っ払ったあげく、「AV女優に似てますね」と暴言を吐くなどのセクハラ言動に及んだ人物を、市長候補に推薦した政治団体がある(らしい)

との、地下の孟子もビックリ仰天の事実があったことを明記して、今回の記事を終えます。

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