恐怖の白い粉(4) 巧妙化する密輸手口

決して過去の手口を使わない 「麻薬を運び込む際、決して過去に使った手は二度と使わない。常に新手をあみ出している」と捜査員は真剣なまなざしをうかべて語る。麻薬Gメン、警察、税関の目が光り、取り締まりが強められていく中で、麻薬を運び込むのはかなりの危険が伴う。苦労して手に入れた麻薬。それを密輸入する寸前でみつかり、つかまってしまってはもとも子もない。犯罪者となるかどうかの接点で動き回っているのが運び屋である。それだけに密輸業者たちは、できる限りの知恵をふりしぼって、運ぶ方法を考える。

その手段として人間に運ばせるか、あるいは物の中に隠して送り、あとで受け取る大きく分けてこの二つの方法がある。人間の場合は運び屋といわれるが、着衣や荷物のほか体内も利用するなど麻薬を運ぶために、ありったけの知恵をしぼる。しかし、人間の場合は取締官の目をくぐるという危険があり、捕まったらその損失も大きく商売にならない。物の中に隠して送る方法は、その点、警戒の目をよういにはぐらかすことができ、しかも大量に荷さばきができる。運び屋という人間を使うことからすれば、意表をついた密輸手段である。

常に変わる手口 / 取り締まり強化で危険伴う運び屋

捜査陣の意表をつくケパート一味 ベトナムから約四㌔の多量のヘロインを密輸したケパート一味は、その点、実に意表を突くのがうまかった。彼らは運び屋を使わず「物」に隠し物だけを送るのを常としていた。それも、これまでに例がない、水にヘロインを混ぜる方法をとった。ヘロインは水に入れるとすぐに溶けてしまううえ腐敗が早いので密輸業者たちは決してヘロインを水に近づけない。「絶対に混ぜてはいけない」といわれるほど水とヘロインはタブーな関係にある。ところが、軍医コーセーはヘロインを水に混ぜて運び込んだ。

ベトナムにいたコーセーはコニャックをまず買い込んだ。そしてラベルをきれいにはぎとり、その真ん中あありを電気ドリルで丸く穴を開けた。そこからヘロインを入れ水を流し込んだ。そのあとガラスで穴にフタをして、はぎとったラベルを張り直し元通りにした。ヘロインはすぐに溶けるので外見では、高級なコニャックにしかみえない。しかしこれができたのも薬理学を専門とする軍医コーセーであったからこそ、である。彼の持つ高度な医・化学技術の知識では、水に溶けたヘロインを元にもどすのはわけのないことだったようだ。

コーセーは、フラスコ、試験管、薬品などいっぱい医療器具のつまった木箱をベトナムから送った際にも、ガラスが割れないようクッションがわりにやわらかいビニールホースを用いて、その中にヘロインをつめ込んだ。また帰沖の時にはゴルフクラブのグリップの中につめ込んで運んできたこともある。「コニャックで運び込んでいればおそらく、いまだに発覚されなかったであろう」と捜査員はいまでも感嘆していう。だがどんなに医学に強く頭のいいコーセーにも誤算があった。「物は動かないということを、欲に走ってしまったあまり、忘れたのではないかい」とふともらした。

あの手、この手でを運び出す 物は決して自身では動かない。だから受け取る人間が必要になってくる。そして、そこから必ず足が出るという捜査の着眼は正しく、コーセー逮捕の端緒となった。かねてから情報をキャッチ、マークしていた男ハーバードが麻薬の沖縄での受け取り人だった。ハーバードがつかまったあと間もなくコーセー、ケパートらがいもづる式に逮捕されていったのはいうまでもない。物は動かない、という運び屋の掟を忘れた時、高度な科学知識を持ってしたシンジケートももろくも崩れ始めていった。

そのほかにも、これまでつかまった密輸でを使った手口は、特別注文の二重底の木箱、脚が空どうになった民族調のテーブル、細工のほどこしたトランク、有名画の額に穴をあけたものと、例をあげればいとまがない。いずれも意表を突くものばかり。物は、必ず本職の人間が作ってその人がヘロインを積め込んでいる。市販の品は絶対に使わないという点も密輸者たちの一致した手口だ。運びの手口がことごとくあばかれたとは考えられない。むしろこれまでに摘発された者と手口はその氷山の一角にすぎぬかも知れない。それは現に中毒患者が麻薬をうち続け、密売組織が暗躍していることでも明らかといえよう。彼らは常に手を変え品を変えて必死になって新手を編み出し、捜査員の目をくぐろうとしている。(昭和48年09月22日付琉球新報夕刊03面)

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