佐々淳行氏死去のニュースで思い出した話

今月10日、安全保障のパイオニアとして知られる佐々淳行氏が死去したとのニュースが報じられました(産経ニュース – 佐々淳行氏死去)。我が沖縄とは直接関連性はないのですが、治安あるいは抑止力の本質に触れた一節を思い出したのでこの場をかりて紹介します。長谷川慶太郎著『2016年世界の真実』の第5章「朴槿恵の韓国と習近平の中国」(146~150㌻)の中で佐々氏のエピソードが記載されていました。読者の皆さん是非ご参照ください。信じるか否かの判断はお任せします。

中国が進める「キツネ狩り」に協力するFBI

「蠅」とは地方の党幹部、高級官僚、国有企業の経営者などだが、「キツネ狩り」という言葉がある。資産を持って海外に逃げた「蠅」を狩り出すことだ。

どうやって狩り出すか。まず、留学生を使う。留学生の出身はだいたい高級官僚ないしは党の幹部であり、大使館に登録しているから連絡先がわかる。この連中をトレースし、そこから亡命者の居場所を洗い出す。そして、中国にいる彼らの縁戚を片っ端から捕まえ、本人に宛てて手紙を書かせる。その手紙を持って大使館員が亡命者を訪問し、手紙を渡して読ませる。

手紙には何が書いてあるか。

「一刻も早く帰って、今までの悪行の償いをしてくれ。かすめた財産を全部、国に返してくれ。それをやってくれないと私は生涯、牢獄から出られない」

このような内容である。大物になれば捕まる縁戚は一人、二人ではない。三人も四人も迎えつけ、そういう手紙を書かせるのである。

ここのポイントは郵便ではなく、大使館員が直接訪ねて手紙を渡すことだ。「中国政府はおまえの所在をちゃんと突き止めている」というデモンストレーションである。これは怖い。その怖さに拍車をかけるのは、アメリカで「キツネ狩り」にFBIが協力していることだ。

数年前にある投資顧問会社が破綻し、八人の日本人幹部のうちの七人がアメリカに逃げた。FBIが日本の警察に力を貸して七人を探し出し、FBI職員が本人のところにいって「国に帰るときに手錠腰縄付きで行くか、それとも成田に行って手錠腰縄付になるか、どちらにする」と告げた。だから全員、帰ってきて、成田で逮捕された。

FBIのやり方は強烈である。例えば吉本興業のある大物芸人の首を切った理由はヤクザとつながりがあったからだが、これはFBIが吉本にたれ込んだ。

日本国内の芸能市場が小さくなる中で、吉本興業は「このままでは駄目だ。国際化しなければいけない。アメリカに店を出したい」と考えていた。そこにつけこんでFBIが「おたくの大物芸人に山口組のエージェントがいる。その首を切らないでアメリカに進出しようなんてことを考えたらひどい目に遭うぞ」と警告した。吉本は震えあがって売れっ子だった芸人を永久追放せざるを得なかったのである。

マフィアとヤクザが発揮した「抑止力」

FBIがそんなことまでやるのは理由がある。他国のブラック社会がアメリカ本土に入り込むのを抑えたいのだ。

古い話になるが、『週刊朝日』に「八〇年代日本は生き残れるか」という連載を十四回、書いたことがある。そのときにヤクザ問題も取り上げた。取材しないで書いたらまずいので、まず浅草にある稲川会の事務所に足を運んだ。次に、山口組にも取材した。道頓堀の松竹座の地下にある喫茶店は、オーナーが山口組の若頭だということを知っていたので、その人のところまで取材に行った。すると、「この間、稲川会に行ったらしいな」といわれた。「もう耳に入っているのか」と応じたら、「その日のうちに連絡があった。稲川会の連中があんたに感心して、何でも思い切ってしゃべったということになっているけど本当か」と聞かれたので、「本当だ」と答えた。

山口組の幹部に何を質問したかというと、「稲川会がハワイへ進出しようとして、マフィアとけんかし、負けて帰ってきたそうだが、どうして負けたのか」ということだった。

このときの記事の趣旨は「日本のヤクザがアメリカになかなか進出できない。その一番いい例が、ハワイに稲川会が出かけていって追い返されたことだ。その代わり、アメリカのマフィアも日本に上陸できない。それは日本にヤクザがいるからだ」というものだった。ヤクザとマフィアはそれぞれ抑止力になっているということである。

FBIが中国に協力するのは、この裏返しであり。中国のブラック社会はテロ組織というのがアメリカの理解であり、それがアメリカ本土に上陸されたら困るのだ。

ちなみに、この記事を載せた『週刊朝日』が発売された日に、私の家の電話が鳴った。受話器を取ると、「警察庁の佐々淳行ですが、今週の『週刊朝日』の記事はよく書けていますね。ちゃんと取材をされたそうですな」。警察官僚の佐々は私が取材したことを確認していた。「東西でそれぞれ、一番大きいところへ行きました」と応じたら、「そうらしいですね。稲川会の連中も感心していましたよ」と佐々はいった。何のことはない、みんな、つうかあなのだ。

警察とヤクザにつながりがあるだけでなく、ブラック社会でも国際的なつながりがあるし、警察も国際的なつながりがある。そして、それは今、強まっている(下略)。

SNSでもご購読できます。