恐怖の白い粉(7) 甘い汁

一日三万六千円も麻薬代につぎ込む 「一日六千円(約十七㌦)この男はそれだけかかっているんだ、ひどいもんだ中毒っていうヤツは…」とある捜査員が言う。「この麻薬天国・沖縄にあてはめて考えてごらんなさい。少なくとも米兵など外国人三千五百人、沖縄の人らが千人。合わせて四千五百人の中毒患者がいるんですよ。たいていの患者は五千四百円から六千円は使う。なかには一万円、一万五千円というのもいる。ひどいのは一日三万六千円だ。一週間は七日ですよ。七日。とてつもないでっかい数字にふくれあがりますよ」

ケシの収穫後、生アヘンを売るタイ、ビルマの農夫らが受け取るカネは十㌔㌘で三百㌦三百五十㌦程度だといわれる。十㌔㌘のアヘンから、だいたい一㌔㌘を少々上回るヘロインができる。その一㌔㌘の精製ヘロインは、沖縄まで運ばれて、末端売人に手渡される間に、何度も混ぜ合されて薄められる。たとえばケパート一味の純度九六%のヘロインは、純度一五%から一七%に薄められていたものだ。混ぜ合すものはだいたい、乳糖、キニーネなどが使われていた。農夫から三百㌦程度で手放された十㌔㌘のアヘンは、一㌔㌘のヘロインに精製され、沖縄で売られるとき、一億円以上にはねあがる。品不足をきたせば、さらに押しあげられる。

抑制がきかない禁断症状の患者 価格が、このように想像以上にうなぎ上りするのは、麻薬を買う中毒患者が、ほんのわずかな抑制や束縛をもがまんできない身体的欲求に駆られたり、脅迫感に駆られるから成り立つものだ。中毒患者はどんなことがあっても自分のヘロインを手に入れなければならない。それはヤミのシンジケートを頼る以外にない。小さな一つのプラスチックの箱に入った白い粉を得るため彼は一日六千円の金をなんとしてでも作らなければならない。六千円のためにはもの乞いをしたり、借りたり、盗んだり、果ては殺人にまで至る。去る九月十九日、終身刑を言い渡されたグアム島出身のアラネタは、麻薬買う金欲しさのため殺人にまで追いつめられていった。

うなぎのぼりにはね上がる価格をケパート一味を例にとりながら、計算していってみよう。

ケパート一味がベトナムから持ち込んだヘロインの総量は約四・四一九㌔㌘で純度九七%という高純度なもの。沖縄麻薬事務所のこれまでの調べで、このヘロインを運び出すのに要した費用は、飛行機代などのいっさいの経費を含めて約一万㌦。

純度高く、三回の注射で中毒患者 四・四一九㌔㌘のヘロインは純度九七%から普通に出回っている程度の純度一五%に落とされて売られた。わかりやすいためヘロインの総量を四㌔㌘としよう。これに乳糖やキニーネを混合し、一五%にすることは六倍以上、薄めることになり、総量も当然、六倍の量となる。四㌔㌘のヘロインは二十四㌔㌘で二万四千㌘だ。麻薬使用者の一階の量は 0.02 ㌘(普通はダイムバックと呼ばれる)で三千円。二万四千㌘のヘロインから百二十万個のダイムバックができる一個が三千円なので三十六億円になる計算だ。ヘロインは三回注射使用すると完全に中毒患者になるといわれている。これは一人一日で三回使用するとして、たった一日で四十万もの中毒患者を産みだすおそろしい量だ。

三百六十円レートで一万㌦が三十六億円。麻薬密売組織はボスの下にヘロインとLSDの同幹部がおり小売り人、中間バイヤーなどの段階を経て中毒患者に流れていく仕組みだから、必ずしもケパートら組織幹部ばかりが、もうけるとは限らない。だが六倍も薄めて密売されるので、一回麻薬に手を出すと、その甘い汁が忘れられず、つい危険をおかして、泥沼にはまってしまうという。

一方では、体がむしばまれていき、果ては殺人事件まで起こしていく。これほどまでのぼろいもうけがあるだろうかだれしも思うだろう。しかも中毒患者はなんとしてでも白い粉を得たがるので「確実にもうかる」といわれるのが麻薬。

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