日共の対琉要綱 – 琉球新報の社説

これまで当ブログにて昭和29年(1954年)8月30日に米国民政府(USCAR)から発表された『日共の対琉要綱』について記事にしました。当時の地元紙(沖縄タイムス、琉球新報)にこの対琉要綱に関する社説等が掲載されていましたので、しばらく数回にわたって史料として掲載します。

この日本共産党(以下日共)から沖縄人民党に配布された(とされる)指令書に対して、当時の新聞は厳しいコメントを発表しています。とくに琉球新報は前身のうるま新報時代(1945~1951)に一時期人民党と密接不可分の時代がありましたので、人民党の変質に関する記事内容には信憑性が感じられます。新報、タイムスともに共通なのが「ああ、やっぱり」という本音で、やはり当時の人たちは日共と人民党との”つながり”をうすうす感じ取っていたと思わざるを得ません。

今回は昭和29年(1954年)8月31日の琉球新報朝刊『金口木舌』、および同年9月1日の同紙朝刊社説を抜粋します。これらの記事で興味深いのは、マスコミ関係者からも人民党の活動が祖国(日本)復帰運動の妨げになるとの認識があったことです。社説に関しては「共産党の非合法化は賛成も、行き過ぎは慎むように」との全うな内容で、施政権者である米国民政府のプレッシャーを感じつつも新聞社としてのプライドを表明した良記事だと感心した次第であります。

昭和29年8月31日 – 琉球新報朝刊  金口木舌

愛される人民党でありたいと党員は願っているらしいが、現実はこれに反して嫌われる人民とになり勝(がち)だとあって6人の脱党者が出ている▸人民党は党員の平均年令が保守党よりも若く、党運営が、きびきびしているだけに相互の摩さつ(摩擦)も多い筈である▸党勢が拡張されると党幹部の鼻息も荒くなり自己批判など割と少なくなり保守陣営と同様にワンマン的人物が登場する▸このような人物を直ちに大指導者として奉り英雄的なものにしてしまい内部には言論の自由もなく力だけで押し切られることがまゝあるらしい▸この英雄崇拝がソ連や中共やその他の指導者につながり下部党員には物も云わさないという。窮屈な党になってしまい当初の党づくりとは凡そ似て非なるものになり終わってしまう▸瀬長批判などもこうした不満から爆発したものらしくここには幾多の遠因、近因があったに違いない。人民党が日共の指導を受けているという世評はずっと前からあり日本復帰運動のごときも党勢拡張の具に使用し、他党や諸団体の復帰運動も自党一色に塗り潰さんとしたことは周知の通りである▸選挙毎に人民党が使用した斗争(とうそう)推進の合言葉”日本復帰”も却って彼等に利用されると遅延するばかりであろう▸人民党は公党であり公然活動によってのみ大衆の支持を受ける筈であるしかるに党内事情はさくそうし幹部の行動は観念過剰で行過ぎが多くの党の内外に浮び上らんとしているのは注目されてよいと思う選挙毎に肥(こえ)ると豪語している人民党はさて今度の選挙にどれだけのことをなし遂げるかすこぶる興味ある問題であろう。

昭和29年9月1日 – 琉球新報朝刊社説 共産主義政党の非合法化

アイゼンハワー米大統領は、去月24日休暇先のデンヴァーで、共産党を非合法化するとともに共産主義者の浸透している組合の取締りをねらいとする共産党非合法化法案に署名した。米国では更に、反共三法案すなわち、△暴力による政府転覆を企図するものの米市民権利剥奪法案、△平時におけるスパイに対し死刑を認める法案、△特定の犯罪を犯したものに対する政府の恩給および年金の支払い禁止法案が既に議会を通過、反共国内態勢は急速に強化されつゝある。米共和党は政権担当以来、強力な反共政策を打ち出し、外部には勿論、国内でも41名の共産党幹部の有罪が宣告され35名を起訴、破壊的外国人105名を追放したという。アイゼンハワー大統領は、共産党非合法化法案に署名するに当り、米国民は合法政党の仮面の下に米政府の全組織を暴力によって転覆しようと陰謀をたくらんでいる団体から自国を護ろうと決意していると述べている。また同大統領は30日デモインにおける演説で、米大陸に共産主義の橋頭陣地を築こうとする試みはグアテマラで行われたとも指摘しており、これらの事を考え合わせた場合、憲法によって思想の自由を許している民主々義の本家本元においてさえ共産党を非合法化せねばならぬ程に二大陣営の冷戦が悪化していることが察せられ、真の自由を守りぬくためには、これまた已むを得ぬ措置と考えられるのである。

ところで、自由主義陣営の極東における最大の反共基地わが沖縄にも共産党が存在することは、統治者たる米軍がつとに指摘していたところである。その名は人民党であり、同党の政治活動や運動方針からして、琉球政府の打倒、米琉離間を目標にしている感があり、共産党のにおいはありながらその極手がないまゝに、彼ら自ら云うところの大衆行動党として黙認する以外になかったのであった。ところがライカムG2がキャッチした日共の対琉秘密指令と人民党の行動が符合するという民政府情報教育部30日の発表により人民党が日本共産党と気脈を通じ、その指令によって行動しているらしいことが明らかにされたわけで、人民党を共産党とする見方の正しい度合いは急速に高まった。この機に立法員議会では共産主義政党の禁止に関する決議案が上程され、人民党の反対を押し切って26対2の絶対多数で通過、特別調査委員会を設けて、琉球内に共産主義政党或いは共産主義政党と提携する政党が存在するか否かを調査することになった。共産主義政党非合法化の前提としては時宜を得たものであり、われわれはこれに謝意を表わすものである。しかしここで考えなければならぬことは、共産主義者締め出しに急のあまり、住民のきょう受(享受)する自由を束縛する結果を招いてはならぬということである。

アイゼンハワー米大統領は共産党非合法化法案に署名に当り、次の言葉すなわち「共産主義者の陰謀から自国を護るには、米国民は米国憲法をフェアプレーの精神に基くことが必要であり、さもなければ無実のものに対しても有罪者と同様、不利な結果をもたらすことになり、やがては米国の法の運用を危険に陥らせることになると考えている」をつけ加えることを忘れていない。共産党は琉球の現状からして非合法化し、まっ殺しなければならぬ。しかしその方法を誤らんか、基本的人権は無視され、言論またその自由を失い、ファッショの台頭で自由を再びもぎとられることを知らねばならない。自由主義陣営の中で生き、民主諸国民と共に栄えねばならぬわれわれが、反共の旗を掲げて共産主義者追放に立ち上がることは当然のことであり、そしてそのことが、より巾の広い自由獲得のための行動であることを再認識し、方向をあやまらぬよう慎重を期さねばならない。

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