引き際のむつかしさ

先日24日、宜野湾市で行われたWBOアジアパシフィック・バンタム級タイトルマッチで、チャンピオンの比嘉大吾選手(Ambition)は大差の判定で西田凌佑選手(六島)に敗れてしまいました。

この試合は明らかに比嘉選手の世界前哨戦的な意図を込めたマッチメイクです。地元沖縄開催で12ラウンド制、しかも対戦相手はスーパーバンタム(53.5~55.3㌔)を主戦場にしている選手で減量苦も期待でき、当初は体格のハンデを覆す鮮やかな勝利を想定していたことは間違いありません。

ところが予想に反して西田選手が計量クリア後に万全の体制で当日リングに臨み、比嘉選手はリング上で嫌というほど体格の差を実感させられる展開になりました。この試合を象徴したシーンは初回の終盤に西田選手が比嘉選手に放ったショートレンジのアッパーで、この1発で比嘉選手は西田選手のふところへの踏み込みを躊躇するようになります。

フライ級であればショートレンジのパンチをもらっても強引に踏み込んだのでしょうか、たった1発のアッパーでボクシングのリズムを狂わせられたところに“階級の壁”を痛感したのです。その後は前のめりのバランスの悪いストレートを連発してスタミナを浪費し、しかも西田選手がクリンチワーク(これがうまかった)で体力を効果的に削ったため、比嘉選手は後半失速、終盤はほとんどサンドバック状態になってしまいます。

この試合は(ボクシング的にいえば)比嘉選手がAサイド、西田選手がBサイドで、いわば西田選手は“かませイヌ”の設定です。本来であればスカッと快勝する予定も、比嘉選手はかませ犬の西田選手に散々噛まれたあげく、自分が踏み台になってしまうという惨敗を喫してしまいます。

しかも地元沖縄のリングで……

これほどの失態を演じてしまった比嘉選手ですが、彼だけを責めるわけにはいきません。今回は明らかな“ミスマッチ”であり、つまり比嘉選手のバンタム級での実力を過大評価したジムの責任が極めて大きいと言わざるを得ません。大晦日の小林選手との試合結果を真に受けすぎたのか、あるいは世界挑戦を急ぐ何かがあったのか、そのあたりの事情はよくわかりませんが、今回の結果は残念なことに比嘉選手のキャリアに再び致命的な傷を作ってしまったのです。

ボクシングに限らずプロ・スポーツ選手は常人には計り知れないプレッシャーに晒されます。先日、プロボクシングのスーパースター候補であるライアン・ガルシア(22・アメリカ)が“健康上の理由”のため7月9日に予定されていた試合をキャンセルという衝撃的なニュースを目にしました。一説では“うつ病治療”とも言われていますが、当初予定されたビッグマッチをキャンセルしての休養宣言なので彼が“深刻な健康状態”なのは疑いの余地がありません。

ご存じの通り比嘉大吾選手はメンタル面に課題があり、野木トレーナーを始め周りの手厚いフォローアップがあって初めて本来の実力を発揮するタイプです。だがしかし今回はお膳立てバッチリの設定にもかかわらず致命的なやらかし案件を演じてしまい、その結果

比嘉選手はバンタムでは通用しない

とのイメージが世間一般の共通認識になってしまったのです。比嘉選手の精神的なダメージは測り知れないものがあると予想できますが、それ以上にブログ主が恐れているのはバンタム級のパンチによる肉体的ダメージです。今回の試合における11~12ラウンドの打たれ方を見ると、今後競技を続ける上で精神的な病以上の深刻なケースを招きかねないと痛感しました。ライアン・ガルシア選手のケースであれば、日常生活に復帰できる可能性は十分にありますが、脳に物理的にダメージを負った場合は不可能です。そしてボクシングという競技はどんな選手であってもパンチ・ドランカーになる恐れがあります。そのためファンのひとりとして残念ではありますが、ここが“潮時”と判断したほうがいいのではと思うブログ主であります。

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