コザの街エレジー(6) 混血児

「うちのジョージの御嫁さんに貰うから。アケミチャンは可愛いいから。それに御利口さんだし……」「誰がお嫁になんかなるもんか、いやぁだっ。あんなヒージャーミー。」

隣家の6ツになるアケミちゃんの無邪気な言葉に妙子の胸は針がささったように痛かった〔。〕5日程前のひる下り、庭でジョージと遊んでいた隣家のアケミちゃんに、御愛想のつもりで言った言葉が何と不用意な言葉だったかを妙子は今更乍ら悔いた。眼の前ではジョージ・ジョージと可愛がってくれる隣人も心の奥底ではこの母をフシダラと笑っているに違いない。いつも一緒に遊んでくれるアケミちゃん。外の子供たちがいじめてもかばってくれているアケミちゃんがあんなことをいうとは!

小校2年生のジョージが、1年坊主にさえ泣かされて帰るとき、妙子の心は散々に乱れ、ヒシとわが子を抱きしめて宿命の子のために涙を流すのだった。はじめてジョージの父を知り合ったとき、当時18歳の妙子はハイスクール2年を退学して軍のメスホールのウェイトレスをしていた。

1つ年上だというジョージの父は若いくせにひげのそり後の青々とした好青年だった。米本国から送られてくる月間雑誌でみるムービースターにも負けない男振りだと思えた。クラブのダンスパーティーにさそわれ、ビーチにさそわれるうち、いつしか2人は愛をさゝやく仲になっていた。つき合って1年目にジョージが生れた。

最初嘉手納に愛の巣を築き、ジョージを中に3名の幸福な生活が続いた。だがそのしあわせも3ヵ年とは続かなかった。

ジョージが3ツの年の秋、冬風が吹きはじめるのと入れ違いにジョージの父は除隊帰米した。2ヶ年程は毎月50㌦の仕送りがあった。手紙もよく取り交した。必ず迎えに行くからジョージを頼むと、いつも手紙の末尾につけ加え、励ましてくれた。その中、金は送ってくるが便りが途切れがちになり、3ヵ年前から何もかもプッツリと絶えてしまった。食わねばならなかった。当時6歳の混血児をかかえた妙子には職が見つからなかった。職はあっても、ジョージを放っては仕事に行けなかった。田舎には母がいるがどうしてジョージを連れて行ったり、預かって貰ったり出来よう。昔風の頑固な考えと風習に生きている村人たちに対して家族の者が妙子のことで肩身の狭い思いをしていることは妙子にはよくわかっていた。誰の世話にもならず自分1人の力で生きねばならないのだ。軍作業の賃金位ではとても女中を置くことなど出来ない。妙子に出来るのはハーニーよりほかなかった。

ジョージの父に対して済まないと考えたのもしばらくの中、やがて妙子はハーニー商売のベテランになった。なるべく年寄りで、金使いのよい、そして一番大切な事はしばらくすると本国へ帰るという人を選んだ。

ジョージが6つの夏から7つの秋までに3名の米人と同棲して、それぞれゴーホームで別れた。

彼等は皆、立派な家具を残し、ミシンを求め、タンスを買い、家をたて、多額の金を残して行った。

コザに20坪近い家を建てて貰ったとき、妙子はその米人と約束した。最後の米人だった。「この家にはもう決して別の米人は入れない。」と。ジョージのためにいゝママさんになれよともいわれた。

学校に行くようになるころ、その人は帰国した。

ジョージの房々とした黒髪に母の涙のしずくがポツンと落ちた。父に似て彫の深い幼いわが子の青い瞳をじっとみつめると、母の涙にさそわれたのか、その瞳もうるんで来た。父の顔も知らない子。明日はケロリとしてまたアケミちゃんと遊び回ることだろう……。

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