コザの街エレジー(16) 貸間業

台風フェイで板塀が吹っ飛ばされ、どこかの野良犬が糞をたれていったと三良兄さんは朝からぷりぷりしていた。そこへ、間借りしている君子が、シュミーズだけの寝呆け顔を出し「兄さん!何とかしてよ早く。昨夜、彼と寝ようとして、裸になったとたん、窓でガタっと音がするのよ…。アレッと思ってふりかえると沖縄ボーイがのぞいているじゃないの。コラッてどなるとばたばた逃げていったけど、うちも裸、彼も裸でしょう。追っかけもできずほんとにいやだったワ…」・そう話している所へジャニーがこれは又ショートパンツにブラジャーだけの姿で、休みだという男に抱かれるようにして入って来た。

ジャニーも大げさな表情で良く塀を修理してほしいと申し込んだ。

「第一、まだ熱いのよ、窓を閉めきってはをかくし、開けて寝るとそこの路地からお部屋の中、まるみえよ。だからって電灯消したんじゃあ……。」

別の部屋から「ジャニー・キミコー、おいでよ、少し遊ぼう」ヨシ子の声だ。朝、目が覚めるといつもこうだ。花札を一時間か二時間、ひどいときは一日中寝床からしどけない格好で這い出して来るや、花札だ。一度手にとってパチパチ切ってみなくちゃ目が覚めんという女だ。

オンリー娘を抱え / 貸間業で将來の夢築く

君子がこの家の一番古株。ここはパンパン屋でもなければ、旅館でも料亭でもない。彼女たちのいうアパート、すなわち宿だ〔。〕三良兄さんがこの家をたててから4年この方、君子は一番奥の角の6畳に住みついている。

ジャニーが2年ちょっと、ヨシ子は1年足らず。3名ともオンリーさん、パンパン嬢とは自ら区別、一種の誇りを持っている。

君子の場合、ここの家賃700円〔、〕ジャニーとヨシ子は800円だ。同じ6畳で、かえって君子の部屋がいいんだが、三良兄さんとその妻のチルー姉さんは相談の上、君子だけ100円安くしてあるのだ。

それは君子が一番、ハーニーらしくない女で、しかも一番〔腕〕がよくて、彼女たちの仲間でも信望がある事を知っているからだ〔。〕一昨日から一部屋空いているがそこにいた女も、やっぱりオンリーさんだったが、その男というのが日本で4~5カ年も暮したという兵隊で、日本で女にだまされて、尻の毛まで抜かれたとかいって、その女をハーニーにしたものの、1カ月1万やって、殆ど毎晩のように来る。その上やれ酒買って来いの、ビール買って来いの、と女にやった金で夕食まで食べるといったやり方。こんなんじゃ、4~5千円貰っているよりまだ悪いと、とうとうその女は逃げ出してしまった……。

そこへ、明日あたり、君子の友達が1人引越して来ることになっている。その人の男は50近いシビリアン、ジャニーも、ヨシ子も、君子の世話でこのお部屋を借りている。だから三良兄さんにとっては君子は大切だ。君子がいる限り、決して部屋を10日と遊ばさない。台所を除いて6畳が5つに4畳半が1つある三良兄さんの家は4つの6畳間をこのオンリーさんに貸し、三良兄さんたちは家族5名で6畳と4畳半に住んでいる。空いている1部屋がふさがると、月3000円の収入だ、三良兄さんは部隊の大工さんをして4700円貰っている。チルー姉さんは家で2人の子供とおばあさんの世話をみながら君子とその旦那さんの洗たくを引きうけて家賃の他に1200円貰っている。

だから三良兄さん夫婦は生活には決して困らない。今、毎月3000円の「ムエー小」をやっているが、それは20人の友達が集まってやっていてもう1年を越している。あと1年足らずで終わるが、三良兄さん夫婦は、その「ムエー小」を取ったらもう1つ12坪の家を建てようと相談している。「ムエー小」を出し乍らもいくらか銀行にも預金してあるし、長男の太郎も来年から高校に行くしとイロイロ考える。それにも1つ12坪の貸家を建てると、不安定な軍作業を止めて、のんびりと民の大工仕事をしながら………、夫婦の楽しい夢が続く……。三良兄さんがだから一番こわいのは、アメリカさんが引き揚げる事と、オフ・リミッツとそれに税務署だ。……チルー姉さんの声にああそうだった塀を直さなくちゃと三良兄さんは大工道具を取り出すとやっこらさと立ち上がった。(昭和32年10月3日付琉球新報夕刊3面)

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