恐怖の白い粉(2)広がる組織

オレは白人のワナにひかかった ある昼さがりの取り調べ室四日前に麻薬密売の現行犯で逮捕された男一人、手錠のかかったまま取り調べを受けていた。黒人兵である。「イエス、おれは何も悪いことはしていない。本当なんだよ」と必死に弁解している。「ではそのわけを聞こう」と静かな刑事の声。「本当だ。おれは何も悪いことなんかしていない。白人のワナにはまったんだ。おれはただ膚の色が黒いために白人のワナにはまっちまったんだ」。黒人兵は憎しみに満ちた目で刑事に訴え続けた。調べている刑事はあ然とした。「白黒の対立は麻薬にまで及んでいるのか…」。悩める現代アメリカをかい間見る思いがしたという。

この米兵は、スタンダール・ベルを幹部とする海兵隊のLSD・大麻密輸組織の一人であった。ほとんど黒人で占められているのがこの組織の特徴すでに一味に十人が逮捕されているがみんな黒人兵だった。「白人は信用できない。必ずおれたちをおとしいれる」とほとんどがつぶやく。そしてボス格のベルについて、つかまった黒人は異口同音にいう。「あんないいヤツはいない。立派な男でおれたちの上官にふさわしい。あれだけ人のめんどうをみるヤツは、お目にかかったことがないよ」と。絶大な信頼である。

麻薬でも白黒対立 / つかの間の夢麻薬パーティー

仲間意識が組織づくりの基盤に 同組織は、普天間海兵隊内の黒人だけで組織されていった。黒人同士の特有な仲間意識がまず仲間づくりの基盤になった。そしてたびたび催されるパーティーで輪が広げられていった。兵隊ばかりでなく上官までが、多かれ少なかれベトナムの戦地で麻薬を覚えてしまっている。そのため、パーティーには「われわれが一杯の酒を求めるように」パーティー用の麻薬を捜しつかの間のに酔いしれようとする。麻薬パーティーは特有なムードだ。その中で新しい仲間が生れてきても不思議ではない。さらに若い兵士たちは思う。「上官もやっているのだからおれたちだってやってもいいではないか」軍規のきびしさがゆるんだスキを、麻薬は見のがさない。

麻薬組織を根底から支える仲間意識は、黒人、白人といった人種だけに限られてはいない。沖縄マフィアの例がそうである。ボス格のジャック・ブラウン(二六)は黒人兵で、同格のジョニー・オードナル二一)は白人兵だった。しかし、二人を結び付けたものは陸軍作戦部隊という部隊であった。二人の戦友は、クラブ「ワールド」を根拠地に自分と気心の良く知れた信頼のおける友人を中間バイヤーに従え、六グループを編成させていた。ケパート一味の幹部三人も同じように仲間を広げている。トップクラスのケパート、軍医コーセー、ハーパートの三人はかつて陸軍特殊部隊という同部隊に所属する戦友であった。しかもケパートとコーセーは戦場のサイゴンのバー内で知り合い麻薬密売という甘い汁を吸い始めた。仲間と仲間の根底には、ゆるぎない線で常に結ばれている。それは同じ人種であったり、同部隊、学校の同窓生、同じ出身地であったりする。

みんなが楽しめるものを売っただけ これらは、それぞれ特有なムードを持ち、独特な意識を持っていることも事実だ。現にプエルトリコ系もそうだった。彼らの意識は麻薬=犯罪、とはストレートにいかない。クラブ「ワールド」をアジトにしていたプエルトリコ系の黒人は「おれたちはみんなが楽しめるものを売り友好の場を与えただけなのだ」という。犯罪意識はさらさら持ち合わせていない。大陸的なおうような気分がそうさせるのか。刑事はその時「民族、伝統、人種あらゆるものが混ぜ合って仲間が広がっていくのだろう」と感じるという。白い輪は共感をもって広がり、信頼で維持され、秘密のベールに包まれたままだ

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