恐怖の白い粉(5) 運び屋

現役女性軍人が重要な役割 麻薬を運ぶ方法は、直接人間が持ち運ぶのと、物だけを送るという方法があるのは前回で述べた。もっぱら人間に運ばせていた沖縄マフィアの場合はどうだったか

運び屋ハリー・キャッシー(二六)は現役女性軍人である。彼女は沖縄マフィアの中でも重要な任務を背負っていた。県警では、春先に得たいくつかの有力な情報から運び屋の中心人物はキャッシーに間違いないとの確信を持った。それ以後八月十日に逮捕されるまで、まる五カ月間の追跡が昼夜を徹して行われたのである。張り込みにつぐ張り込みが根気強く続けられた。

県警麻薬捜査班は、夏になってから、暗やみの陰にうごめく沖縄マフィアに接近するため、当面、捜査の主力をキャッシーに置いた。執ような捜査陣の努力は、ついにキャッシーがタイからヘロインを運び込む、という情報をつかんだ。七月二十一日、タイ発米民間機で、ヘロインを隠し持ったキャッシーが来る。到着は同日午後三時四十五分。那覇空港に…。はやる心を押える捜査陣。

二十一日、捜査班は万全を期し、米軍情報局、米領事館、米空軍犯罪捜査部などに協力を求め、この米民間機の到着を待つ態勢を整えた。予定時刻に飛行機は那覇空港にすべり込んだ。厳重な警戒体制が敷かれ、乗客はひとりひとり、そうして慎重にチェックされていった。しかし、最後の乗客がロビーへ消えるまでキャッシーは姿を見せなかった。そのころ、キャッシーは、すでに乗用車に乗って仲間に麻薬を渡していたのだ。捜査班は見事に裏をかかれた格好になった。キャッシーは、どこから情報を得たのか、予定の民間機をキャンセルし、米軍用機でゆうゆう嘉手納基地に舞い降りていたのだ。

女性のからだの一部をうまくつかう もちろん軍用機で降りた時に身体検査を受けた。だが女性のからだの一部を使い死角をつくような運びの手口だれ一人として見抜くことはできなかった。キャッシーがつかまり、自供し始めた後、「なるほど無理もなかった」と捜査に当たった職員だれしもがクチビルをかんだものだった。キャッシーは女性のからだを十分に利用し、体内に隠し込んで運んでいた。捜査陣は「こんなにしてまでも…」と絶句した。それからしばらくして、同じ運び屋でタイ国女性が逮捕された時、同じようにからだに隠して運んだと自供した。運び屋は六人いたが、うち四人は女性だった。

彼女たちは、タイ国で飛行機を乗る寸前に麻薬を体内に隠して乗り込む。機内では取り出して到着前に再び体内に隠し込んだ。検査を受けた後、仲間の車に乗ってはじめて、彼女たちは解放される。女性の体内に隠し、捜査の死角を見事に突いていた。

ぶあついチョッキが逮捕のきっかけ また、昨年十一月一日、嘉手納基地で逮捕された米人二人は、ズボン、チョッキ、上着の縫い目にヘロインをぬい込み運び込もうとしたところを発見された。その時の発端は、南国沖縄の太陽だった。十一月というのにかなりむし暑い日だった。にもかかわらず、二人はチョッキや上着、コートをはずそうとしなかった。他の乗客は「ワンダフル・オキナワ。さすがに暑い」と言いながら上着をぬいだ。着込んだままの二人に不信が持たれたのは当然なことだった。

こうした例は、組織の重要ポストを占める運び屋であったため、組織の上部に捜査の手が届き、ボス格の首根っこを押さえることができたといえる。専門の運び屋がいるというのはごくまれだ。決まりきった人間に麻薬を運ばすという組織は、逆に見ると、まだシンジケート化されていないといえるかもしれない。「同じ人間が何回も同ルートを往復するとだれでも不審を抱きますよ」と捜査員は笑う。しかし、プロの運び屋は、どんな場合でも最後まで口を割らないのが通例だ。それだけに組織にとっては安全な存在である。しかももっとも安全な人間は組織のことを知らない素人たち。何も知らない素人を麻薬密売組織は運び屋によく利用する。(昭和48年9月24日付琉球新報夕刊03面)

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