沖縄の売春 – 私の見たその実態(3)

「しかし、売春禁止法ができたら、かえって売春を街頭に野放しにする結果となり、性病はもっとひどくひろがるのではないだろうか?」

キャラウェー高等弁務官が立法院に勧告した性病予防法改正と売春禁止法の立法に対して、当然予期される反対の声は、全世界の過去の実例から推測して「性病を野放しにする危険」である。良心的だが、売春の歴史と過去の諸事実に精通しているわけではない医師の間では、必ずこのような反対意見を述べる者が出てくるに違いない。

世界の売春専売地域梅毒、20人に1人の患者

イギリスとスウェーデンではかつて売春宿という制度を許したことはない。ヒトラー以前のドイツ、ブルガリア、デンマーク、フィンランド、ハンガリア、ノルウェー、ベルギー、ポーランド、ルーマニアー、チェコスロバキア、トルコ、南アフリカ、オーストラリア、ボリビア、カナダ、そして、アメリカ合衆国と日本は、長い期間の試みのあと、売春宿の廃止を行なった。

従って、沖縄は、施政権を持っているアメリカ合衆国とも、潜在主権を保持している日本国ともちがって(というより、両者から無責任にも見放されて)売春制度を”公認”(罰しも禁止もしないのだから公認というよりいいようがない)している世界の”売春専売地域”なのである。

ところで、ベルギーでは、すでに一九二九年、かつて同国でも容易に退けることができなかった性病を、十年間の努力で十分の一に減少させることができた。

イギリスでは、性病予防法の努力により一八七〇年から一九二五年にかけて、軍隊における性病が十分の一に減少した。

オランダでは一八九〇年から一九一〇年にかけて、軍隊における性病感染率が五分の一に減少した。右とほぼ同じ年代において、売春宿を認めていたフランスの首都パリでは梅毒が急増しつづけていた。

世界の文明国の実例にあげた年代が古いのは、売春の禁止と性病予防法が、これらの文明国ではとっくのむかしに実行されてきたという事実を示すだけであり”むかし話”という意味ではない。

ところで沖縄では、梅毒が急激にひろがり、現在(一九六三年!)二十歳から四十歳までの年齢層で、二十人に一人の割合で患者がいると推定されるに至っている。

当然のこととして、同じ売春婦に接しているアメリカ兵の中にも、かなり高い比率で梅毒感染者がいると推定できる。

売春の”公認”は沖縄の恥部であるだけではない。もはやそれは、沖縄の患部であり民族の血を汚す致命傷となりつつある。

良識と良心のある人はだれでも、売春禁止法と性病予防法を支持しなければならないのである。(昭和38年4月26日付琉球新報夕刊2面)

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