【あいろむ版】勝連具志川のおもろの御さうし その1

今年にはいってなぜか多忙な日々が続いた影響か、阿麻和利関連の記事の更新が半年ちかく途絶えてました(申し訳ありません)。とはいっても時間を見つけては「おもろさうし」などの関連史料をチェックしてきましたが、今回から「巻十六 勝連具志川のおもろの御さうし」に掲載されている「あまわり」に関するおもろを紹介します。

その前に阿麻和利に関する記事を配信する過程で数多くの史料をチェックしましたが、そこで気が付いたのが「阿麻和利の乱(1458)は歴史史料の中にのみ存在する」という点です。具体的には史実としての阿麻和利の乱の真偽は判断できないけど、「球陽」など18世紀以降の史料のなかで勝連の事件が語り継がれてきたことと、そしてその過程で阿麻和利の解釈も時代によって変化を生じたことは歴然たる事実なのです。

ただしブログ主は阿麻和利の通説を前提に「おもろさうし」を読み解くと、とんでもない誤解を生じるのではとの疑念が常にあり、実際に解釈に歪みが生じているのではと思われるオモロを見つけました。それは「巻十六 勝連具志川のおもろの御さうし」のにある「(一六ノ二)命上がりが節」であり、結論を先に申し上げると、実はオモロ詩人がこの神託を授けた相手は阿麻和利ではなく、国王なんです。

ここから説明が長くなりますが、まずは該当のオモロをご参照ください。

(一六ノ二) 命上がりが節

一 おもろ、殿原よ、末の口、正(まさ)しさ。勝連、選びやり、千代わされい。

又 調め、殿原よ、(一節二行目から折返)

又 聞こえ阿麻和利や、国の弟兄、生し御座して、(一節三行目から折返)

そして、鳥越憲三郎先生の解釈は以下ご参照ください。

【解釈】①② おもろ殿原(人名)だよ、予言者の言葉は正しいことよ。勝連(地名)をえらんで、千代にいましませよ。③ 名高い阿麻和利(人名)よ、国における兄弟をお生みなされて、……

この解釈によるとオモロ詩人が「勝連を選んで千代にいましませよ」とオモロを授けた相手は「阿麻和利」です。ただし外間守善先生の解釈は違っていて、オモロを授ける相手は明らかに「国王」になっていますが、同時に勝連を讃える内容※なっています。試しに外間先生の解釈をご参照ください。

※国王が阿麻和利をお選びになったのでその地域は栄えるの意。

おもろ殿原よ、宣るも殿原よ、霊力あることばの優れて正しいことよ。勝連を選んで来給うたのだ。名高い阿麻和利を国の縁者としての兄弟になし給いて、勝連は栄えることだ。

なお、両先生の解釈の違いを踏まえてブログ主なりに意訳すると以下のようになります。

おもろ殿原(人名)だよ、予言者の言葉は正しいことよ。

(国王は)勝連の地をお選びになり、千代にいましませよ。

名高い阿和麻利よ!(国王は彼を)国の縁者に成し給い、

(そして国王は)勝連をお選びになり千代にいましませよ。

いかがでしょうか。ブログ主が案ずるにこのオモロは本来「巻八おもろねやかりあかいんこかおもろ御さうし」に蒐集されるものなんですが、なぜか巻十六に蒐集され、後世になって阿麻和利や勝連を讃えるオモロとして認識されたのではと考えてます。

大事なことなので繰り返しますが、このオモロは国王を讃えた内容であり、つまり主人公は国王、阿和麻利や勝連はあくまでサブキャラとして扱っているのです。となると気になるのが、このオモロはいつ作られたのか、そして国王は誰かになりましょうか。この点は次回、調子に乗って深堀します(続く)。

【追記】「おもろさうし」を読み解くと、勝連は古来より「聖なる地」と認識され、首里王府も重要視していたことが伺えます。そして国王が勝連を「選びやる」ことはその聖地のご加護によって、王家が末永く栄える(千代にいましませよ)を意味します。それゆえに「かつれん、ゑらひやり、ちよわれ(勝連、選びやり、千代わされい)」の節は明らかに国王を讃えた内容なのです。