
那覇署は〔昭和37年8月〕4日午後11時から旧盆を前にしての防犯取り締まりと、特飲街の実態調査に乗りだした。初日の4日は、杉原総務課長、照屋外勤係長、外間巡査部長ら総勢およそ20人、明け方の5時まで盛り場の巡視を行った。
ボーナスもほぼ出まわり、おまけに土曜日とあって深夜の盛り場はなかなかにぎやか、酔っぱらいが警官にからんだりで取り締まり官の苦労もなみ大抵でない。結局この日の取り締まりであがったのは強盗1件、交通事故1、時間外労働3、白タク1、泥酔保護1件だった。以下その随行記(喜友名記者)
陰性な十貫瀬付近 / 那覇の特飲街は不夜城
🕚 まず午後11時那覇署を出発した取り締まり陣は若狭町派出所へ、このあたりは港関係者相手の飲み屋街があるところだが、派出所員の報告によると平穏無事、しかし派出所員は ”まだいま自分はこのへんではヨイの口で事件が起こるのはこれからだ” ということだった。そこに交通事故の報告、2人の男が車にはねられたという。現場にかけつけると2人の男が道に投げだされている。警官がすぐに病院にかつぎ込んだが、大した傷ではないという。
🕛 12時すぎから崇元寺派出所へ。零時半ごろになって1人の青年がこう奮して飛び込んで来た。この青年、酔っぱらっているうえにオシなので調べには警官も手を焼いた。なんでも強盗におそわれたと訴えているらしいが、なかなか要領をえない。このこう奮がさめるまで一時派出所で保護することにして、取り締まり官は安里派出所へ。
🕐 安里派出所にも酔っぱらいがクダをまいていた。しきりに警官にからんだあげくは、タクシー賃を要求するしまつ、係り員も”このていどはまだいい方でもっとひどいのがいるんだよ”と苦笑しながら、やっと説得して帰した。あんなのが傷害事件や強盗事件に巻き込まれたら捜査もさぞや難しいだろう。
🕑 午前2時から桜坂通り、ここは那覇市の不夜城、この時刻だというのにここは人の群れ、チョビヒゲをはやしたおっさんが、孫のような娘の手にぶらさがるようにして歩いているかと思えば、青年が道にいぎたなく酔いつぶれている。そのそばで不具者がかなでるバイオリンの音が物かなしく鳴り、哀調をそそっていた。那覇のというより、沖縄の一断面を見せつけられる思いだった。
🕒 午前三時すぎ取り締まり官一行は十貫瀬へ、ここは桜坂が陽性なのにくらべて陰性だ。あちこちに5,6人ずつたむろする女たちが、一行を見るとスッと姿を消す。杉原課長の説明によると、ここは路地がせまいうえに、迷路みたいなのが多く、事件が起こると捜査の難しい所だとのこと。あちことで人の気配はするが、なかなな姿を見せない。暗いよどんだような空気がただよっている。
🕓 取り締まり官一行は4時すぎから神里原特飲街へ、夜も白みかかっており、さすがに人通りは少ない道ばたで青年2人がいがみ合っているのを、女たちがおもしろそうに見物していたが、官の近づくのに気づきそのまま散っていった。
午前五時取り締まり官一行は引き上げた。一行の話によるとこの日はまだ静かな方で、いずもはまだ荒れるというが、方々の盛り場では泥酔した人たちが横行し、酔っぱらい防止法などどこ吹く風、杉原課長は
「みんなもっと適度に酒を飲んでくれれば事件は少なくなるのだがなあ」
と白みかかった空にぶぜんとしてつぶやいた。そのつぶやきはパトロールを終えた全員の実感でもあった。