1913年(大正2)のユタ裁判 その2

なぜユタを信じるのか?

本日から1913年(大正2)2月27日より、計4回行われたユタ裁判について記述します。登場人物や時代背景などできる限り説明しつつ、友寄隆静氏の口語訳をベースに公判の全文を掲載します。

~1913年(大正2)、2月27日 那覇区裁判所での第一回公判(琉球新報の記事は2月28日、3面に記載)~

ユタ・仲地カマド*の正式裁判は、きのう那覇区裁判所で、長野判事係り、中原検事立ち合いの下に開かれた。ユタの処分は、新任の田尻署長の英断で、那覇署始まって以来のことだが、ユタ・仲地が、これを不服として、正式裁判を求めたのも沖縄初めて。珍裁判として世間の好奇心を集め、法廷には放火犯、(野原)光輝*以上の満員で、法廷の外まであふれた。定刻10時過ぎる30分、判事、検事、書記相次いで入廷。ユタ・仲地は、この日琉球織の仲廊廻と称す浅黄あわせの上着を着流し、従姉の50代の老女をしたがえ、顔色失せて入廷した。傍聴人は口々に、あれがユタだと目と目でうなずきあう。

*ユタ・仲地カマド 現代の新聞ならおそらく仲地容疑者と記述するところ、ユタ・仲地と書いているところに時代を感じます。カマドさんはユタ稼業を否定しているので、「ユタと疑わしき」と記述するのが相応しいかと。 

*野原光輝(当時26) 1913年1月19日に沖縄県庁内の建物を放火した強者。当時中頭郡役所勤務で「日比重明知事の失政ガー」との理由で放火、その後自首。琉球新報に公判の記事があります。 

長野判事は、先ず住所、氏名、職業等を訊き、通訳*を通してユタ君スラスラ答える。中原検事が簡単に彼女の罪状を説明したあと判事の訊問に移る。

*通訳については詳細な記録なしです。仲地カマドさんは1869年(明治2)、那覇西町生まれとのこと。おそらく正規の教育を受けていないため、標準語が苦手だったかもしれません。 

長野判事 被告は本年2月17日午後10時、西町66番地、具志堅マウシ宅に行き、自分に観音の御告げがあると称し、那覇は近頃、神の信心が浅いため、タタリを受け、ついに東町に大火が起こったのだ。陰気七獄、陽気七獄、都合14ヶ所の拝所の水の神に祈願しなければ、西町及び辻遊郭も近いうちに全滅するとのお知らせがあったと説いた事実はありますか?

仲地被告 覚えていません。

長野判事 その日、具志堅マウシ宅に行ったことはありますか?

仲地被告 行きました。

長野判事 何の用でしたか?

仲地被告 旧の十三夜でしたので、観音祭りのためです。

長野判事 なぜ観音を祭ったのですか?

仲地被告 私の身体のためです。私は従来身体が弱く、観音を常に信心していました。その日も、いつものように観音い祈っていた時(この時合掌して祈願の真似をする)巡査が入って来て捕えたのです。

と述べながら、薄汚れたハンカチーフを出しワッと泣き出す。泣き言を云いながら、ユタをする身分ではない、と繰り返し、傍聴席をクスクス笑わせたのは愛嬌であった。

長野判事 具志堅マウシの宅には、マウシ娘某が病気にかかり、それを治すため、祈願に頼まれて行ったのではありませんか?

仲地被告 具志堅マウシが娘の病気だから早く来てくれと言ってきたので、約束の時間より早く行きました。

長野判 警察署で、具志堅マウシが取り調べの時、申し立てたことによれば、その日被告は具志堅宅の表屋敷で、底神の御告げと称し、恩納節のような口調で*、今年はミンネー丑の年で、火災や旱魃が多いため、水火の神が荒れ、東町の大火を起こしたのであり、早く祈祷しなければ、又々西町に大火起こり、辻遊郭も丸焼けになる、と神の御告げだと話したことになっているが、本当ですか?

仲地被告 そんなこまごまと組み入った話をした覚えはありません。

長野判事 それならば、具志堅マウシが警察でウソを言ったと思いますか?

仲地被告 知りません。彼女を呼び出してお取調べ下さい。

長野判事 具志堅マウシの警察での供述の中に、被告は字中の人々を集め、神のことを説き、祈祷をすすめ、もし応じなければ自分一人でも祈祷する、と話したそうですが、本当ですか?

仲地被告 覚えがありません。

長野判事 具志堅マウシは被告の言葉を信じ、字の人々に告げようと思っている中、17日には西、東町の婦人連が、上波之上、下波之上及び、天尊小堀に祈祷することを聞き、これ幸いと、西町玉川屋付近に住む平良カメに、被告の話を告げたと言うが、被告はその事実を知っていますか?

仲地被告 知りません。(続く)

*恩納節のような口調で 当時の琉球新報の記事を読むと、不自然なまでにフォントを拡大している箇所があります。この箇所もどのような意図で拡大して記事にしたのか不明です。 

*下図は拾い画像ですが昭和初期の那覇の地図です。

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