1913年(大正2)のユタ裁判 その9

前回の続きです。本件とは無関係ですが、息抜きにお笑いポーポーのカマド体操の動画をどうぞ。

https://youtu.be/I8fh5UIhU5A

松田裁判長 城間ゴゼイ、城間オミトは、平素より知り合いですか?

仲地被告 両城間も同じ西町の人ですから、前からつきあい、且つ共に具志堅マウシ宅の観音を拝む同僚です。

松田裁判長 被告が神言を言った事を、平良カメは具志堅マウシより、安慶田オミトは城間ゴゼイより聞いたと言うが、皆ウソと思いますか?

仲地被告 そんなことはぜんぶウソです。

松田裁判長 前法廷での被告の申し立てによれば神言は具志堅マウシが言ったとも事だがどうですか?

仲地被告 その通りです。2月17日、具志堅宅に平良カメ及び首里人某等、4~5名集まった所に、城間ゴゼイ、城間オミト両人が来て具志堅マウシに向かい、西町は火難をまぬがる様、ここの観音に祈祷して呉れと云ったのに具志堅マウシが、西町は祝氏より出火するようだ、と言えば、両城間は大変驚いて早速町の人に告げようと出て行き、また戻ってきて氏を忘れた、何氏と言うかと再び聞きただしたので具志堅マウシは、祝氏であると。祝氏と言うのが覚えにくければシュクガラスを覚えておればよい、と両城間を帰したるもので、私は決して言いません。

松田裁判長 その時、具志堅マウシはどんな態度で言いましたか?

仲地被告 普通の話し振りでした。

松田裁判長 具志堅マウシは平素より歌を唱う口調で神言を言うのですか?

仲地被告 歌の口調にて言うことは時々ありますが、その時は普通の話し方でした。

松田裁判長 具志堅マウシの申し立ては、警察におけるのと、前法廷におけるのとは大体一致している。被告が神言を言ったことは間違いないのではありませんか?

仲地被告 ちがいます。城間ゴゼイ、城間オミト両人は具志堅宅を辞したあと、また来て、町の人々に聞いても祝氏というのは西町にない、と言っているので、どうすればよいのかと言いました。具志堅マウシは祝氏というのはいないので、私がここの観音に祈願してあげます、と帰したのです。でも、神言は具志堅マウシが言ったことは分かります。

松田裁判長 被告は今回の火事の時だけでなく、平素神言を言ったことはないのですか?

仲地被告 言いません。具志堅マウシが言うとき話相手になるだけです。

松田裁判長 これまで、他人の祈願に頼まれたことはありませんか?

仲地被告 ありません。自分の祈願も具志堅マウシに頼んでいました。

松田裁判長 被告はユタ事をなすは不正と思いますか?

仲地被告 不正のことと思います。

松田裁判長 具志堅マウシが言うような神託等というのはウソだとは思いませんか?

仲地被告 ウソだと思います。

松田裁判長 ウソ事と思いながら、何故神を信じるのですか?

仲地被告 具志堅マウシが、神を信仰しなければ、病気を起こして死ぬと言ったので信仰したのです。

松田裁判長 警察の素行調査によれば、被告はこれまで、2~3人へ嫁いだものの、素行がよくないため、いずれも離縁され、その後4年前よりユタをして生活していると言うがどうですか?

仲地被告 決してユタをしたことはありません。

松田裁判長 ユタをしなければ平素裁縫で一日いくらの収入がありますか?

仲地被告 一日20銭ぐらいの収入があります。

松田裁判長 日にどれだけの生活費がいりますか?

仲地被告 一日20銭以内で足りますが、時々兄弟より補助を受けています。

ここで弁護士の弁論に移った。

弁護士の証人請求 ユタ・仲地の弁護人、前島清三郎は、2月17日具志堅マウシ宅に集まった者は、被告の外、吉浜オミト、金城カナ、上原オト、小嶺オミト、及び垣花の某老婆の5名で、その時神言を言ったのは具志堅マウシで、被告が言ったものではない。真相を知るには右5人を証人としてお調べ下さい、と証人調べの請求があり、中原検事の論告に移る。

検事の論告 弁護人の言うように、具志堅マウシは、或いは被告と共にユタをした事もあるかも知れないが、それは別問題で問う必要はない。必ずしも被告にユタの名称をつけてなくてもよろしい。被告が神託なり等の流言浮説をし、世人をたぶらかせしめた事は、最早争えぬ事実である。故に弁護人の請求せる5名の証人調べは不必要と認めます。裁判長は陪審判事と共に法廷に立って合議し、再び法廷に臨み、弁護人よりの証人請求は不必要と認めると宣言し、再び検事の論告に移り、中原検事は大要次のような論告をした。

もう、検事の論告も必要ないと思う。何となれば本官が第一審の時に提供した種々の証拠及び本日裁判長の得た証拠によって、事実は一点の疑いもない。被告は前裁判に不服を唱えて控訴したのだが、被告にとって有益なる事柄が見当たらないのみか、本日も何ら利益となる証拠もなく、新しい申し立てもない。被告の有罪は明らかである。本官が前裁判で20日の拘留はむしろ軽すぎると主張したのは、被告が他人より金銭等を取ってユタをしたとすれば、たしかに、詐欺罪を適用して懲役に処すべきところだが、証拠がないた、め拘留処分としたものである。彼等ユタの社会に及ぼす罪悪は決して少なくない。20日の拘留では余り軽い。29日の拘留に処すべきを適当と認める。

検事の再論告の後、前島弁護士は、警察の提供した証拠は一々信用できず、被告は神人にしてユタではないと、弁解、ユタと神人をの区別の説明より、具志堅マウシが観音を加味するに、天理教を以て愚民を迷わしたありさま、天理教の主旨、性質等を説いた後、警察及び新聞紙等は信用できない。裁判官は公平無私の判決をされたい。最後に、被告は決して流言浮説をした者でなく、無罪の判決が正当である。もし有罪となるも拘留では重き故、科料に処せられん事を望む、長時間にわたり詳細なる弁論をした。

裁判長は再び陪審判事と合議した後、本控訴を棄却する。不服ならば3日以内に上訴すべき旨を言い渡して、12時30分に閉廷した。(終わり)

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