史料 浦崎康華氏の「新沖縄建設大綱(私案)」

今回は戦後史料の一つとして、浦崎康華(うらさき・こうか)氏の「新沖縄建設大綱(私案)」を掲載します。その前に「浦崎康華って誰?」と突っ込まれそうですが、この人物は沖縄人民党の初代委員長で、人民党の宣言、綱領の原案を作成したことで知られています。

生まれは 明治30(1897)年那覇の泊、長年ジャーナリズムに携わってきた新聞人で戦時は国家総動員事務も担当しています。『新沖縄建設大綱(私案)』が作成されたのは沖縄戦中の昭和20年5~7月の間で、浦崎氏が捕虜として収容されていた高江洲市で作成されました。今回は昭和58(1983)年に刊行された「戦争と平和の谷間から」 291~303㌻ に掲載されていた全文を抜粋しました。読者の皆さん是非ご参照ください。

(中略)その「新沖縄建設大綱」を書いたのは次のような人知れない、いきさつがあった。すなわち筆者(浦崎)が米軍から任命されて高江洲市助役兼高江洲小学校長在住中、米軍CIC勤務ロバート・A・スカピラノ中尉(注=のちカリフォルニア大学法学部長でコンロン報告の主要執筆者)と中城城跡駐屯の米軍砲兵隊長ジョセフ・R・シーツ准将(注=のち少将に昇進し琉球列島軍政長官となって来島、シーツ善政をしいた人)の両人から、ほとんど同時に「沖縄の将来についての希望」を書くようにと委嘱を受けたので、1945年5月下旬から7月下旬までの間に起草して提出したものである。

脱稿当時は、沖縄戦が終わり、日本の敗戦必至、降伏一歩寸前の情勢下であり、国際連合は、まだ誕生しなかったので、戦後処理は国際連盟か、米、英、中、ソを中核とする連合国にゆだねられるものと考えていた。したがって本稿には随分見当ちがいもあるが、当時の一難民の希望として米軍に訴えた記録の一つであり、その全文は次のとおり。

新沖縄建設大綱私案趣旨及び目的

沖縄及び沖縄人を今次戦争の惨禍から速やかに救済し、災を転じて幸福をもたらすため、かつ、また60万の弱小民族が虐げられた歴史のキズナを断ち切って、その本来の平和的民主的姿に立ちかえり、世界人類の幸福増進に寄与するため連合国とくにアメリカ合衆国の指導と援助により新沖縄を建設せんとす。

一、主権

沖縄の将来の運命について、われわれ一部の沖縄人は

A、アメリカ合衆国の保護国(委任統治を含む)

B、国際連盟の共同管理

C、日本への復帰

D、支那への隷属

のいずれかに決するものと予想している。しかして、われわれ一部沖縄人の希望する統治の形態は、従来の沖縄県の区域を包含し連合国の保障の下にアメリカ合衆国の保護による独立国を建設し、国土保全及び外交はアメリカが掌握し、内政に関するすべての権限 – 最高度の自治(仮に主宰権という)は沖縄人これを掌握して平和的進歩的な民主主義国家を建設することである。しかし、沖縄中央議会の議決または人民投票によりアメリカ合衆国の保護より離脱し得るようにすること。

なお、出来れば沖縄を恒久的に無防備地帯たらしめること。

(参考)奄美諸島の沖縄帰属を歓迎するも、それは同島住民の意志によって決める。

また、沖縄の内政部面の指導と援助に必要なアメリカ合衆国人の顧問を置き得ること。

二、人権

各人自由、平等たること、而して

A、従来の階級、身分制度を打破し、且つ住民に等しく言論、集会、著作、印行、結社、信教、思想、居住の自由を認めること。

B、役人その他公職に就く資格を単に学歴のみに捉われず、選挙及び試験制度を採用すること。

(備考)立法機関の議員及び行政機関の長は選挙、その補助者(指揮下の職員)は有資格者中より長たる者これを任命すること。

C、役人の不正行為、職権濫用及び腐敗を防止するため、適当なる監察制度を採用すること。

三、土地

土地は暫定的措置として一応国有にし、与論によって根本的解決をなすこと。而して

A、各部落に土地委員会を設置し、土地台帳の整備、土地の利用及び配分分合、収用等に関する調査立案をなさしめること。

B、従来の慣例により土地の種目を宅地、田、畑、墓地、山林、原野、雑種地等に区分し、左の方法により私用又は管理させること。

▹宅地は暫定的法令を以て従来の宅地(屋敷)を、その所有者に限り200坪を限度として一時的占有を認めること。但し、宅地を分割して公共団体、又は近親に無償貸与し得ることもするも、売買、賃貸借、抵当権設定は禁ずること。なお、宅地の制度に照応し住宅建設にも必要な制度を加えること。

▹田、畑は暫定措置として沖縄の古い制度である地割制度に準じて住民の数に応じ部落に耕地を配分し、部落をして共同管理させること。

▹墓地、山林、原野、雑種地は区画を設けて最寄の機関、団体、又は住民をして共同管理させること。

C、従来、日本政府の所有にかかる土地及び官造その他の諸財産は沖縄中央政府に移管すること。

D、公共機関及び団体に必要な土地は出来れば前掲の移譲財産の土地を使用し、必要に応じ土地委員会の調査立案を得て従来の私有地の中より決定すること。

(備考)新沖縄の建設までに第一期・軍政期の段階を経るものと思料せられる。土地問題の解決は第二期の民政期においてなすこと。従来、土地を所有しなかった人たちのため、でき得ればアパートに収容し、又は土地委員会の立案せる空地の一時使用をなさしめ、将来、土地問題の解決を円満ならしめるための措置を講じておくこと。

四、政治

民主主義を基調として政党責任の立憲政治たらしめ、且つ戦争及び内乱(階級闘争も含む)を未然に防止するよう措置すること。而して、

A、憲法及び法律を制定し、又、公共機関の機構及び職務権限、官制、俸給を定めること。

B、近代国家の悩みである労使の対立、貧富の懸隔の甚だしきを防止するため、適当なる社会政策を実施すること。

C、政党を自由に結成させること。

(備考)日本政府は従来、労働者階級の政党結成をすこぶる厳格に取締まったため、左右両翼の秘密結社が生まれた。又、左翼の政党は権力によって解散、その指導者は投獄されたので言論、集会、結社の自由は極度に制限されていた。将来の沖縄を明朗ならしめるため、前述の基本的人権を尊重し、自由を高度に発揮させること。政党華やかなりし時代の沖縄においては失業者も多かったため、貧官汚吏の徒は政党と結託して地位を獲得し、又、保身の手段にした。往時、沖縄を席巻した白黒党争の基底には一つの理論もなかったことを顧みるとき、速かに政党を育成し、政策を掲げて選挙に臨み、選挙戦をスポーツの水準まで高めるための政治教育が徹底的に行われるべきである。

D、全住民の意志を決定するため、人民大会及び人民投票の制度を設けること。

E、立法、行政、司法の三権を分立させ、その間、役人の兼職を許さないこと。

F、立法機関は、中央及び地方にそれぞれ議会を設けること。20歳以上の男女に選挙権、25歳以上の男女に被選挙権を与えること。

五、経済

自由主義経済を基調とするが、適当な調整を加えること。

A、1945年3月末以前の個人相互貸借及び模合は棒引にする。

B、法定通貨(は)アメリカ合衆国より借款すること。

C、右のほか沖縄の自活可能な時期までアメリカ合衆国より相当額の援助を仰ぐこと。

D、金融機関としては銀行、保険会社、無尽会社を設定し、銀行は預貯金、貸付、為替、信託等、保険会社は各種保険、無尽会社は庶民の金融機関として、それぞれの業務を管掌させること。なお、必要にによっては民間模合を許可し従来のように相互扶助の面を管掌させること。

六、産業

速かに家内工業より機械工業に転換させること。而して

A、各種中小企業をできるだけ速かに産業組合の傘下に置くこと。差し当り各種産業は沖縄の自給自足を目標として復興させること。

B、食糧及び必需輸入物資の代金支払いに要する産業をアメリカ合衆国の指導と援助により速かに育成すること。

C、農業は集国農業を採用し、部落及び班をして共同管理させること。

D、家畜の増産に格段の努力を払うこと。

E、工業は速かに従来の従業員を復帰させ、機械工業への転換に必要な訓練を併せ行うこと。且つ沖縄人の特質に応ずる新工業を振興すること。

F、漁業を速かに遠洋漁業に発展せしめ、古来の伝統の海洋民族としての特質を発揮させること。

G、林業は従来の山林原野を整理し、有用材の植栽を行うこと。

H、商業は広く農村で行われたように産業組合、または共同店をして行わしめること。

七、食糧

主要食糧を地元の生産物と輸入により確保すること。而して

A、速かに台湾、朝鮮、シャム等より米を輸入すること。

(備考)従来、沖縄県は毎年37~8万石の米を消費していた。その内、県内産は僅か12~3万石で24~5万石は台湾、朝鮮、シャムより輸入した。日本人一人当り米の消費量は1年間に1石1斗(一日約3合)、沖縄人は、その約60パーセントの6斗2升(1日1合7勺)を消費し、残りは芋で補っていたが、生活の向上と配給率の結果、芋食が米食へ転換し、これに伴い米の消費量は毎年増加のいきおいであった。土地が今次戦争により甚だしく荒廃し、その結果、芋その他の食糧作物の減収とため、米に依存する関係もますます緊切である。そのため米の輸入を容易ならしめることは焦眉の急である。

B、食糧のうち、次の品目は当分輸入を要するので、これを確保する必要な措置を講ずること。すなわり米、麦、粟、大豆、落花生、トーモロコシ、馬鈴薯、メリケン粉、食用油、豚肉、牛肉、山羊肉、海藻類、調味料、果物、菓子など、嗜好品として煙草の輸入をすること。

C、暴風雨その他非常災害に備えて、食糧倉庫を分散設置し2ヶ月以上の食糧を保有すること。

D、食糧は現行の配給率を当分継続し、充分な供給の見通しがつき、且つ相当人数に上る戦争孤児、孤老、要救護者の処遇が合理的に解決する見込みがつき次第、与論によって自由販売制への移行を決定すること。

八、貿易

貿易を国営にすること。而して

A、貿易に必要な船舶は連合国、或はアメリカ合衆国より譲受、又は借受すること。

B、速かに那覇港を開港場としての築港及び施設を整えること。

九、人口調査

一定の人口政策を樹立すること。而して

A、外国と条約を締結し移民を送出することができるように努力する。

(備考)戦前の沖縄の人口過剰は出稼ぎ移民によって緩和し、且つ、貿易の輸入超過は出稼ぎ移民の送金によって決済し得た事実に鑑み、将来も沖縄人が適地への移民は必要であること。

十、教育

教育の体系とたて、且つ、住民に対して機会均等たるべきこと。而して

A、教育費は総て公費をもって支弁すること。

B、総合大学、高等学校、初等学校等すべて男女共学たること。

C、社会教育に格段の努力を払い、速かに日本教育より受けた偏狭な愛国主義、軍国主義、英雄主義、官僚主義を払拭し、人道と正義に基く教育を行うこと。とくに勤労の尊重、公共心の涵養、民主主義の円満なる発達に資する教育に力を注ぐこと。

十一、運輸、通信

国営として定期便の系統を樹立すること。而して

A、海運は国営による船舶によって各離島及び外国との定期航路を設けること。

B、陸運は主として、汽車及び自動車を使用して、各地区間に定期路線を設け旅客の利便を図ること。

十二、保健衛生

保健衛生に関する施設は総て国営にすること。而して

A、医師は役人として各地区に適当に配置すること。

B、医薬分業を認めること。

(備考)現在、代診及び助手の任にある者に対し試験を行い、合格者に対し医師の免状を交付し医師なき地区の解消に努めることが必要である。

十三、労働

労働を尊重する態勢を整備すること。而して

A、労働者の賃金を引上げて、その生活程度を高めると共に、従来の官尊民卑及び労働蔑視の風習を是正すること。

B、労働組合を公認し団体交渉権、政党への団体加入、罷業権を認めること。

十四、都市及び住宅地

都市として建設すべき地域を速やかに決定し都市計画も樹立すること。従来の如く農民離村と都市集中を分散すること。而して

A、復興局、または建設局の如き中央機関を置き建築資材の調弁、都市計画、復興計画、住宅及び造営物の建築等を管掌せしめ、速やかに新沖縄建設の基本的事業を実施すること。

B、沖縄独自の発展を遂げた那覇、首里、真和志の地域を合併し、沖縄の首都として復興させること。

(備考)首里は七百年来の沖縄の首府たりし古都、那覇は開港場を擁し、商業施設、官庁街として近年著しく発展せる都市、真和志は首里、那覇の中間及びその近郊の地であり、この三地域を合併して商工業地域、官庁学校街、住宅地域に区画し、一大近代都市を建設すべく与論が高まりつつあったとき、今次戦争によって中絶したことに鑑み、この際、実現の好機であること。

C、速かに各市町村に都市計画委員会、又は復興委員会を設置し具体的計画を樹立せしめること。

D、部落、又は住宅地の復興に際しては、なるべく耕地配分を適正ならしめるよう立地条件を考慮し且つ、区画整理、道路、上下水道等の諸施設を先行するよう措置すること。

十五、その他

A、生産及び文化を高めるため工業用動力、照明、煮炊を電化すること。

B、新聞雑誌、その他、図書の刊行を奨励し、必要なる出版物を輸入すること。

C、図書館、博物館、研究所等を復興、又は新設すること。

D、上下水道を普及すること。

E、風土病 = マラリア、フィラリヤ等の防遏に格段の努力を払うこと。

F、民力の涵養を待って適正な租税を賦課徴収すること。

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