祖国復帰運動の矛盾 – われら日本国民(強制したとは言ってない)〈その1〉

(続き)以前、当ブログで掲載した記事、 “復帰協が残した教訓 – その2 経歴” の中で、復帰運動を主導する民間団体の結成が当初はうまくいかなかった件について言及しました。

そこで沖縄教職員会では、教育現場において “日本人教育” を徹底化するために、以下の活動方針を打ち立てます。『屋良朝苗回顧録』(朝日新聞社)によると、

1,学校などの公共建築で “日の丸を掲揚” すること。日の丸掲揚運動は全県的な盛り上がりを見せ、最終的には昭和36年(1961)年に「日本の祝日、正月の三が日、琉球の祝日」には掲揚の許可が下ります。

2,教育現場における小学生への英語教育に反対すること。教職員会は日本語教育を徹底化する活動方針のため、当然反対します。そして復帰までに小学生への英語教育はクラブ活動も含めて実施されることはありませんでした。

3,民立法として「教育基本法」を公布させること。この基本法には前文に「われわれは、日本国民として人類普遍の原理に基づき、民主的で文化的な国家……」とあり、教育現場における日本人教育に法的お墨付きを与えるものとして、教職員会が強力に要請していた案件で、紆余曲折を経て昭和33年(1958)1月に公布されます。

つまり屋良会長率いる沖縄教職員会は、教育現場における児童生徒の “ヤマト化” を強力に推し進めることで、草の根から復帰運動を盛り上げて、最終的に祖国復帰を勝ち取る方針で組織を運営したのですが、その過程で見過ごせない弊害が生じます。

一つ目は地方の方言が急速に消えていったのです。誤解されている読者もいらっしゃるかと思われますが、沖縄の方言はアメリカ世時代になって初めて社会の表舞台から追放されたのです。最大の理由は学校における徹底した “国語教育” と、テレビやラジオなどのメディアの急速な普及です。

大日本帝国時代は高嶺朝光氏(沖縄タイムス社社長)の証言にもある通り、沖縄方言は学校現場から崩れていきます。高嶺さんが「中学校は宮古や八重山からも学生が来るので、結果的に学校内で使われる方言は各地の訛りのごっちゃまぜ状態になった」旨の発言を残していますが、それはあくまでも学校内での話であって、実社会ではコミュニケーション言語としての “方言” は健在でした。

アメリカ世になると「祖国は日本、アメリカ世は特殊」の発想のもと、学校現場だけでなく、家庭や実社会でも日本語を使う動きが加速します。山本七平さん流に言えば “空気の支配” が地方から方言を消滅させていったのです。そしてその一翼を担ったのが学校現場における強力的な “国語教育” なのです。

二つ目は学校現場における行き過ぎたヤマト化教育が行われていた点です。その傍証として以前にも当ブログで紹介した新聞投稿を再掲載します。読者のみなさん、心してご参照ください。

日本は祖国か

日本帝国の教育をうけたおとなは平気で日本のことを祖国とよんでいる。そして、再び日本の領土になることを臨んでいる。そして信じている。その思想を、敗戦後生まれた僕らにさえたたきこもうとしている。しかし、僕らはその祖国日本論を信ずるわけにはいかない。

僕たちと、おとなとの、対立は次のことで解ると思う。

1963年に、沖縄に、文部大臣が来島したときのことだった。日本帝国教育を受けた教師が、「全員必ず、日の丸の小はたをふらなければならない」といったので、A君は「ふる意思のない人も?」と、聞くと、教師はむろんと答えた。それで、この問題をホーム・ルームにかけようという意見がB君から出た。さっそく討議した。まず、A君の発言があった。

A君「歓迎というものは、人に強制されるものでなく、自己の信念でやるべきものだ」このA君の意見に75%の人が賛成した。

しかし、教師は教職員会の決定だからといい意思のない人も、旗をふりにいけと命じた。

旗ふりに参加しなかったA君と意思を同じくするもの5人は、補導室でバットでなぐられ3日間休んだのち学校に出てきたが、まだ少々びっこをひいていた。

新聞報道は、さも、本心から、生徒がはたをふったというふうにかいていた。

なぜ僕らは日本祖国論を認めないのか、僕らが今日成長するまで日本の恩恵を経済的、あるいは精神的にうけたであろうか。

民族の団結というが、その思想は未来あるわれわれにはせますぎる。日本が祖国という、資格も義理もない。僕らがおとなになるころは、日本祖国論など、きけないだろう。もっと、大きな思想を僕らは得るだろう(那覇市松尾・大城実)

引用:昭和39年(1964)7月27日付琉球新報02面。

この投稿に対する当時のおとなたちの反応が、現代人の目から見ると極めて興味深いので、この点について次回詳しく言及します。(続く)

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