自衛隊は招かざる客

前回の記事があまりにも反響を呼び過ぎたため、正直公開をためらいましたが、今回は昭和52年1月の自衛官成人式不招待問題の記事を紹介します。ちなみにこの問題は、昭和54年(1979年)から那覇市が成人式の主催を地区実行委員会に変更したことで解決します。つまり地区の実行委員会が成人式に自衛隊員を招待するようになったことで、那覇市長の事実上の敗北という形で決着がついたのです。

一部民主団体が”自衛官成人式阻止闘争”と題した反自衛隊闘争を展開しますが、そんな運動はあっという間に下火に終り、現在では成人式に自衛官が参加しても誰も文句は言いません。是によりて之を観れば、反自衛隊感情はあくまで一部の人達だけであって、那覇市民(あるいは沖縄県民)=反戦平和・反自衛隊であるとの”みなしの論理”はやはり無理があったと言わざるを得ません。

現代のセンスでは信じられないかもしれませんが、復帰後の沖縄の空気を知る上での恰好の素材なので、今回史料として記事をアップします。読者のみなさん、是非ご参照ください。

昭和52年1月11日付琉球新報朝刊9面

ことしも招待せず自衛隊員の成人式出席

那覇市が正式通知会場の混乱理由に

十五日に各地で成人式が行われるが、那覇市では今年も市が主催する成人式典に自衛隊員を招待しないことを決め、十日午前、市教育委員会の宮里政秋委員長らが自衛隊を訪ね正式に通知した。那覇市では自衛隊が沖縄に配備されて以来、一貫して自衛隊を成人式に招待していない。「自衛隊員が出席すると会場が混乱する」というのが理由だが、自衛隊側では「隊員といっても、成人式は市民として個々人が迎えるものだから那覇市の通知はどうも…」と、那覇市の通知に納得していない。しかし、県労協などでは那覇市の不招待を支持している。沖縄市や具志頭村、知念村などでは招待状を出している。

県下に駐とんしている自衛隊員でことし成人式を迎えるのは二百五十一人。このうち那覇市内居住の自衛隊員は百三十四人(陸上五十六人海上十六人航空六十二人)いる。那覇市ではこれまでも自衛隊員を成人式典に招待しなかったが、ことしの式典出席について十日午前宮里教育委員長、外間律教育次長らが航空自衛隊那覇基地に横田博司令を訪ね“不招待”を申し入れた宮里委員長らはこの中で自衛隊員を招待すると民主団体が反対したりして混乱する。トラブルが起こると成人を迎えた一般市民も自衛隊員も不愉快な思いをするので出席は遠慮してもらいたい」と伝えたこれに対し横田司令は、申し入れの趣旨を了解しなかったという。

自衛隊では那覇市の“不招待”について正式コメントを出していないが、陸上自衛隊那覇駐とん地の広報官は現在どう対処しようかと部隊内で相談している段階だ。成人になるのは隊員としてなるというよりそれ以前の市民としてなるのであって、個々人の問題。大旗君の時もそうだったが、今回の成人式の場合は部隊として直接的には動いていない。配備されて五年目になってまだずっとこういう扱い受けるのはおかしい。他府県ではこういうことは聞いたこともない」と話している

陸上自衛隊では十五日の那覇市主催の式典に隊員が出席できなかった場合、那覇商工会議所で行われる経済界主催の成人式に隊員が出席することになろう、といっている。

昭和52年1月13日付琉球新報朝刊9面

自衛隊の成人式“不招待” 人権侵害の疑い?

地方法務局が調査那覇市が反論“人権問題ではない”

「混乱するので自衛隊員の式典出席は遠慮してほしい」那覇市が市主催の成人式典に自衛隊員を招待しないことを決めたのに対し、各方面で論議が起こっているが、那覇地方法務局は人権侵害の疑いがあるという立場から調査に乗り出した。また、政府でもこの問題を重視、三原防衛庁長官が調査を指示するなどの対策をとっている。一方、自衛隊員の側でも「なぜ招待しないのか」と十二日、那覇市に対し“質問状”を出したしかし那覇市では招待するしないは市長が判断するもので、人権問題でもなんでもない」と反論している。

那覇地方法務局はさきの大旗君(自衛官)の琉大短大部入学の際も調査に乗り出したことがあるが、こんどの場合でも、自衛隊員という理由だけで那覇市主催の成人式典に招待しないというのは差別的取り扱いで人権侵害の疑いあるというためで、同法務局の山口徳盛局長は現在予備調査的に情報を集め、上層部に送っている。この問題は差別的扱いで人権侵害になると思うが、法務局として人権侵害問題で扱うかどうかになると、政治的な問題も含んでいるので、こちら(出先)だけで判断できない。このため上層部と連絡をとっている。成人式までになんらかの見解をまとめたい」と話している

一方、沖縄の人権問題を扱ってきた沖縄人権協会の金城睦事務局長(弁護士)は「むずかしい問題で、大旗君の入学問題と似かよっている。たしかに個人としてみれば差別してはいけないが、自衛隊員は個人というより部隊として存在しており、指揮命令があればいついかなる時でも従わねばならないので普通の会社員などと異なるそういう性質を持っているのだから自衛隊員をすべての面で一般市民と同じ扱いにする必要はないと思う。単に市が招待しなかったからといってすぐ人権侵害になるとはいえないと思う」と、招待しないからといって直ちに人権侵害になるというのは疑問があると異議を唱えている。

自衛隊員が質問状

那覇市が「成人式には自衛隊を招待しない」と態度表明したことについて、那覇駐とんの海、空自衛隊のことし成人を迎える隊員から「理由を明らかにせよ」との質問が十一日、那覇市教育委員会の外間永律教育次長に届けられた。

同質問状の内容は「自衛隊員の手記」という形式をとっているが、差出人の名前も、あて名も明記されてなく、上司の小川一等空佐が直接、外間次長へ届けた。これについて、那覇市は「あて名も差出人の名前も書かずに質問状を出すなんで、非常識もはなはだしい」と反発している。

質問状の内容は「私たち成人を迎える海、空自衛隊六十一人は」ということばで始まり「先日、上司に呼ばれ、ことしの那覇市主催の成人式には自衛隊員は招待しないとの申し入れがあったことを聞いた。先輩たちの話を聞いたところ、これまで自衛隊員は選挙の投票を行って、市民としての権利を遂行してきたが、何の混乱もなく現在に至っている。このため、市民として成人式に参加することは当然だと思うが、なぜ参加させないのか理解できない。理由をはっきりさせてもらいたい」というもの。

これに対し、市当局は「人権問題でも何でもない。招待するしないは行政事務の範囲のもので、市長が判断する」として、軽く受け流しているが、再度、市の態度を明らかにするために、十三日午前、平市長が公式見解を発表することにしている。

防衛庁が法務省なのに善処要望

【東京】那覇市が十五日の成人式に自衛隊は招待しないと決めたことに対し、関係隊員が反発、人権協会に訴えを起こすという事態が出てきたが、防衛庁は「(那覇市のやり方は)極めて遺憾なことだ」(三原防衛庁官)と隊員の行動を支持文部法務の両省を通じて善処するよう要望した。

那覇市は自衛隊が沖縄に配備された四十八年以来、自衛隊員は成人式に招待しないとの方針を堅持、それをめぐるトラブルは起こっていない。今回に限り防衛庁、自衛隊が対抗手段をとったことについて、防衛当局は「個々の隊員が自発的に行動を起こしたため、中央でもそれに対応した措置をとった」と弁明している。

本土では、那覇市のような「自衛隊員の成人式出席はお断り」という厳しい方針を打ち出した自治体はない。那覇市は自衛隊員を招待しないのは「成人式の会場が混乱するからだ」と説明しているが、防衛庁側は「成人というのは隊員である前に個々人の問題だ。それを隊員だからというって招待しないのは納得できない」と反発している。

三原防衛庁長官は、那覇市の方針について十一日「極めて遺憾なことだ。防衛庁独自で抗議するが、関係省庁を通じてやるか、至急検討したい」との考えを明らかにしていた。この長官指示を受け人事一課長名で文部省社会教育局と法務省人権擁護局に対し善処を要望したもの。

昭和52年1月13日付琉球新報夕刊3面

自衛隊は招かざる客平良那覇市長、成人式招待問題で会見

「当然の行政判断」、反戦平和の立場を強調

「市主催の成人式に、自衛隊員は招待しない」との態度を那覇市が打ち出したことに対し、各方面で議論が巻き起こっているが、この問題について平良那覇市長は十三日午前、記者会見し「差別されているのは県民、市民だ。反戦平和、自衛隊配備に反対する私の信念と、それによって市民の信託を受けた市長として当然の行政判断である」との立場を明らかにするコメントを発表した。これは、これまでの「自衛隊員が参加すれば混乱が予想される」という、運営上の配慮を理由とした姿勢から、さらに一歩踏み込んで「反自衛隊」の姿勢を前面に打ち出したものとして注目されている。またこの日、那覇市議会の野党・新政会が「差別は憲法違反である。自衛隊員を参加させるべきた」と抗議したのに対しても「自衛隊は招かざる客で、考え直す余地はない」として、強い態度でつっぱねた。なお、「人権侵害」でこの問題を調査している法務局は十四日午後二時から市長と会うことにしている。平良市長の記者会見要旨は次の通り。

一、自衛隊員七十一人から文書が届き、南西航空混成団司令部人事部長の小川宏一等空佐から市教育次長に手渡された。匿名の質問状と受け取っており、今さらコメントする必要もないが、市長に問う形になっているので一応答えたい。招待しないということは、平和と市民自治の立場から市民の戦争体験に基づいた当然の行政措置であることを隊員や関係者に理解してもらいたい。若者を特別な理由で差別するものではない。

一、それは反戦平和、自衛隊配備に反対する信念と、市民の信託を受けた市長としての行政判断である。違憲判決にもあったように、自衛隊は国民の全体的合意もなく、那覇市民の政治的合意も得ていない。那覇市民は軍隊を必要とした政治の犠牲者であり、過去の歴史においてわれわれこそが、差別された市民である。

一、過去、アジア民族が標的となり、われわれ那覇市民も加害者として銃をとり、罪のない人たちを撃ってきた。また、日本帝国主義軍隊の標的として多くの犠牲者も出した。戦後三十年の米軍占領は当然のむくい、戦争責任としてあった。しかし、それは沖縄県民だけが受けたもので、本土の人たちが私たちに背負わせてきたものである。それで本土の人たちは高度成長を遂げてきた。戦後史は本土側とわれわれとは異質のものである。

一、(自衛隊の)若い人たちが「市民でありながら招待されない」と憤慨する気持ちはわかる。しかし、同じ国民でありながら「差別されてきた」と叫びたいのはわれわれである。市民の差別は多岐にわたり、根も深いことを指摘したい。この政治上の不公平人道上の犠牲を強いていて、これを解決しないで、極部的な人権不公平差別をいうことは許せない責任は自衛隊とそれを配備した日本政府にある。

一、このように市民性をなぶられいて、どうして(成人式参加を)容認するのか。招かざる客でも招待するというのはおかしい。これを支持する市民の代表として招かないことにした。若い人(隊員)たちも、二十歳になった機会に上官から教えられるのではなく、自らの目と心で戦後史を読み市民の心情を理解してほしい。そして「どうして招かれなかったのか」ということを、私に質問するのではなく、自分でじっくり考えてもらうことが有意義である。今度の質問状は背後の人たちが政治的、意図的にやったのだろう。

昭和52年1月14日付琉球新報朝刊 11 面

防衛協会、那覇商工会議所、経営者協会など十一団体は十五日午前十一時から那覇商工会議所ホールでことし成人式を迎えた自衛隊員を招いて成人式を行う。

沖縄に駐とんする自衛隊員でことし成人を迎えるのは陸八十人、空自四十七人、海二十八人、計百五十五人。那覇市は、自衛隊に対して、反戦平和の立場から自衛隊員は成人式に招待しないとの立場を明らかにしており、その是非をめぐって論議を呼んでいる。

那覇市のほか、佐敷村も自衛隊員を成人式に招待しない方針。勝連村、与那城村、知念村などは、自衛隊員を成人式に招待する。

昭和52年1月15日付琉球新報朝刊 11

人権擁護委が翻意要請

自衛隊員の成人式不招待那覇市長は拒否

「反戦平和の立場から、市主催の成人式に自衛隊を招待しない」という那覇市に対し、川平朝申県人権擁護委員会連合会長ら代表三人と、野見山隆明地方法務局人権擁護課長ら代表二人は、十四日午後、那覇市役所に平良市長を訪ね、事情聴取を行うと同時に、事態の善処方を要請した。席上、川平会長らは「職業によって差別するのはおかしい」として、翻意を促したのに対し、平良市長は「反戦、反自衛隊の立場から当然の措置。事を荒だてている自衛隊当局に問題がある」との姿勢を再度明らかにした。

席上、川平会長は「これまで、市長は成人を迎える自衛隊員に記念品を贈っていたので、その成人を祝う市長の心情はわかる。しかし、市長の(記者会見での)コメントを見る限り”差別”を感じざるを得ない。不偏、不党、中立の法律に基づき、差別には反対である。自衛隊も市民であり、税金を納めている。自衛隊側は、職業で差別されるのはいけないといっており、私たちもそう思うので、市長としても考え直してもらいたい」と要請した。

これに対し、平良市長は「行政をあずかるものとしては、なるべくおだやかに運びたいと思っている。だが、沖縄県民の気持ちの底流には自衛隊を受け入れないところがあり、それが県民の心情でもある。だから招待しなかった」と経過を説明した。

このあと、自衛隊当局の対応について「人権問題などと大げさにいきり立つのはおかしい。成人式というのは一つの祝いであり、法律、国民の義務、権利にかかわる問題ではない。強いて問題にする自衛隊当局にこそ問題がある。考えようによっては、問題を荒だてる自衛隊は、沖縄の平和を乱しているともいえる」と、今回の措置に対する理解を求めた。

また、川平会長らが「差別しないとのいう市長の心情は理解した」として「自衛隊は国家機関なので、今後は隊員が参加できる環境づくり」を訴えたのに対し、平良市長は「そのような国家機関は認めない。(問題解決の)一番の早道は、自衛隊が引き揚げることだ」と、反自衛隊の立場を強調した。

一方、地方法務局の野見山課長らは席上ひとことの発言もなく、市長の会見後に「きょうの話し合いの結果を本庁へ報告、指示を仰ぎたい」と話していた。

 

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