続・琉球藩の時代 朝鮮民主主義人民共和国との比較 その3

凍土の共和国

前回の記事で、琉球藩と北朝鮮社会との共通点として「民間にお金持ちが見当たらない」ことを説明しました。今回はもう一つの共通点である「官吏の腐敗堕落が著しい」件を取り上げます。

1970年代において、北朝鮮のお役人の腐敗堕落が酷いなんて主張すると、それこそ朝鮮総連から猛烈なクレームが殺到し、それに便乗して日本の進歩的文化人からも猛批判を浴びるのが定例でした。ちなみに北朝鮮の社会の停滞と、官吏の著しいレベル低下を始めて世に明らかにしたのが、1984年刊行の「凍土の共和国」です。

それ以降は、北朝鮮の社会の実体が徐々に明らかになっていき、現代ではかの地の役人の腐敗堕落は常識となっている観があります。ブログ主が伝え聞く限りでも、北朝鮮の官吏の惨さは呆れるレベルですが、問題は何故こんなにひどい状態になったかです。ブログ主が思うに、その原因の一つは、粛清のやり過ぎではないかと仮定していますが、この件の考察は本ブログの趣旨に若干反するため、詳細は省きます。

さて、琉球藩時代における官吏のお話に戻りますが、当時来琉した日本人たちは、当地の官吏に対してあまりいい印象を持っていません。一例として、河原田盛美著の「琉球紀行」からの一文を抜粋します。

酷胥の多きこと殆んど支那を真似たるが如く、貧戻を行い百姓を浸魚虐使する、実に坐賍の罪免る可からざるものなり。「つまり毒を百姓に流して顧みざるに至る歎ず可きか甚しきなり」故に下民し凋瘵極窮に居る多し。官庫蔵四ヶ所にあり、首里に銭蔵あり、上世座仕登座と云、米蔵粟倉あり、又御物蔵、用意蔵、船手蔵、砂糖蔵、宮古蔵ありて、是等の蔵方吏と成るや数年の勤労に依りて此官を得れば、則ち毒を百姓に流すを常とし、以て生計を営むを当然のこととするなり

・酷胥:「胥」は事務処理をする役人のことで、文字通り酷い役人の意味。

・坐賍:「賍」は不法に手にいれた財のこと。賄賂など不正蓄財の意味になります。

・是等の蔵方吏と成るや数年の勤労に依りて此官を得れば:数年の勤労の間は無給です。蔵方吏に昇進後にボーナスが支給される給与体系だったので、士族は不正蓄財しなければ生活が成り立たない実情があったのです。

この挿話からも、当時の琉球社会の停滞と惨状を窺うことができます。士族が数年間無給で働かざるを得なかった理由は、人口が急増した割りには琉球王府が提供する働き口が少なかったことが原因です。数年の勤労の間は、士族の妻が小商いをして家計を支えるのが一般的ですが、問題は妻の収入だけで家計が支えられないケースが出てきた場合、当然官吏たちは不正蓄財をして業務を遂行しなければなりません。

つまり構造的に不正をしないと、お役所仕事が勤まらない社会環境になっていて、もはや琉球王府側ではどうすることもできなかったのです。もちろんそのツケは課税対象者である百姓階級に回されます。官吏の不正行為の代表格は貢租徴収の際の不正計量ですが、その行為が常態化して、王府側でも改めることができない程、官僚機構が腐敗堕落していたのです。(続く)

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