閑話 人口の増加が沖縄社会に与えた影響を真面目に考えてみよう アメリカ世 その1

前回の記事において、大日本帝国時代(1879~1945)における全人口に対しての若者人口の比率(14~24歳)の増減が沖縄社会に与えた影響について簡単に記述しました。日下先生の著作『大人の国のための戦争学』の中に、「人間も人口が増えると、極端な人が出てくる。普通なら滅びるが、そういう人が適応しやすいように世の中が変われば生き残る」との記載がありますが、大日本帝国時代の沖縄県がまさにその通りで、極端な人物の象徴は伊波普猷先生(1867~1947)で間違いないでしょう。その他にもこの時代は個性的な人材は数多く輩出し、彼らが社会に与えた影響は極めて大きいものがありました。

いわば「異端や規格外の存在が社会全体を大きく動かす」ことができたのです。これは尚家が支配していた琉球国の時代にはあまり見られない現象です。唯一の例外は蔡温(1682~1761)でしょうか。今回は、アメリカ世(1945~1972)において人口の増減が社会にどのような影響を及ぼしたかを考察します。

沖縄戦終結後の正確な人口統計はありません。昭和22年(1947)の推定人口が53万人になりますが、現在ブログ主が確認できた沖縄県の人口統計図をアップしますのでご参考ください。残念ながら、年齢別の人口統計がありませんので、14歳から24歳までの若者比率の計算することはできませんでした。

・大正9年(1920)から平成27年(2015)までの沖縄県の人口推移。

20170609

下の図は年齢(3区分)別人口の推移ですが、昭和25年の人口が69万、昭和30年の人口が80万をこえているため、若干矛盾しているように見受けられます。ただし昭和20年から30年までに人口が激増したのは事実であって、その原因は

  • 復員兵が帰ってきたこと。
  • 県外へ疎開していた県人が、疎開先から家族を連れて帰ってきたこと。
  • ベビーブーム(昭和25年あたり)

あたりが考えられます。それでも昭和25年から30年にかけての人口の増え方は異常そのもので、この時期に沖縄の政財界などで重大出来事が起こったの納得です。一例を挙げると

・昭和27年(1952)に琉球政府が誕生します。沖縄諮詢会→沖縄民政府→沖縄群島政府と行政組織がコロコロ変わりますが、琉球政府の誕生で落ち着いた形になります。

・琉球政府を支える(保守)政党として、昭和27年(1952)琉球民主党が誕生します。昭和25年に創立した社会大衆党からの分裂です。

・警察が再編されます。昭和27年4月(1952.04)に琉球警察がスタートします。当時の組織の特徴は公安制度を採用しなかったことです。

・昭和25年(1950)に「復金」がスタートします。正式名称は「琉球復興金融基金」で、琉球銀行が低金利の住宅ローンを提供します。この金融政策は琉球・沖縄の歴史上最大の成果を挙げます。

これらの政財界の動きは、「社会秩序の再構築」がスタートしたことを意味します。終戦から10年を経過して、戦前をはるかに越える人口を抱えた沖縄社会にとっては当たり前の動きと言ってもいいのですが、面白いことにアンダーグラウンドの世界でも秩序の再構築の動きが起こっているのです。

昭和27年(1952)年に喜舎場朝信(1926~)を中心とする「戦果アギャー」の集団が「コザ派」として組織され、那覇では繁華街の用心棒たちが又吉世喜(1933~1975)を首領に祭り上げて「那覇派」を結成します。琉球・沖縄の歴史上初の暴力団の誕生です。

上記の暴力団は昭和35年(1960)から45年(1970)にかけて、壮絶な抗争を繰り広げるのですが、最大の理由は昭和20年以降に激増した若年層から充分に構成員を調達できたからと考えています。昭和27年の那覇・コザ派の構成員の総計は推定で400人弱ですが、昭和47年の復帰当時は沖縄旭琉会として一本化して、構成員数は推定で800人弱です。1961年から始まる3次の暴力団抗争は拳銃や手榴弾を駆使した熾烈な戦いになりますが、それでも構成員の数が増えているのです。いかに当時の沖縄社会において若年人口が急増しているかが推測されます。

余談ですがこの時代を象徴する事件として、昭和28年(1953)の米軍現金輸送車強盗事件昭和29年(1954)の沖縄刑務所暴動があります。その中で社会を騒然とさせたのは刑務所暴動で、きっかけは収容人数をはるかにこえる受刑者を収容したことで、受刑者の待遇が劣悪になってしまったことです。この案件も人口激増とは無関係ではありません。面白いのは暴動当時に瀬長亀次郎さんが収監されていたことです(暴動との関与は不明)。ここでは詳細は記述しませんが、この事件に興味のある方は「犯罪実話物語 沖縄警察五十年の流れ」(比嘉清哲著)を参照されることをお勧めします。

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