必要以上に相手を刺激してしまった結果…

平成30(2018)年2月8日、産経新聞は『沖縄米兵の救出報道 おわびと削除』の見出しで、「12月9日に配信した『危険顧みず日本人救出し意識不明の米海兵隊員 元米軍属判決の陰で勇敢な行動はスルー』の記事中にある「日本人を救出した」は確認できませんでした…(中略)記事は取材が不十分であり削除します。記事中、琉球新報、沖縄タイムスの報道姿勢に行き過ぎた表現がありました。両社と読者の皆さまにおわびします」の検証および謝罪記事を1面(と3面)に掲載しました。

http://www.sankei.com/affairs/news/180208/afr1802080005-n1.html

実際に当ブログにおいて問題となった平成29年12月9日の産経ニュースの記事と、それに対する平成30年1月30日の琉球新報の反駁記事を写本して比較した結果、この案件は明らか産経側に非があることが分かりました。「不確定な情報をもって、必要以上に相手を刺激してしまった」ために起こったトラブル案件です。沖縄二紙に関してはブログ主もいろいろ思うところはあるも、今回は琉球新報の主張を全面的に支持します。

まずは産経ニュースをご参照ください(記事は既に削除されていたため、複数の Web サイトおよび魚拓を確認したうえでの写本になります)。

【沖縄2紙が報じない】危険を顧みず日本人救出し意識不明の米海兵隊員、元米軍属判決の陰で勇敢な行動するー(産経ニュース/2017129 186分)

12月1日早朝、沖縄県沖縄市内で車6台による多重事故が発生した。死者は出なかったが、クラッシュした車から日本人を救助した在沖縄の米海兵隊曹長が不運にも後続車にはねられ、意識不明の重体となった。「誰も置き去りにしない」。そんな米海兵隊の規範を、危険を顧みずに貫いた隊員の勇敢な行動。県内外の心ある人々から称賛や早期回復を願う声がわき上がっている。ところが「米軍=悪」なる思想に凝り固まる沖縄メディアは冷淡を決め込み、その真実に触れようとはしないようだ。沖縄県を席巻する地元2紙のうちの「沖縄タイムス」は2日付社会面で、くだんの事故をこう伝えた。記事はベタ扱いである。

《 1日午前4時53分ごろ、沖縄市知花の沖縄自動車道北向け車線で、車両6台が絡む事故があった。県警によると在沖米海兵隊の男性曹長(44)が本島中部の病院に救急搬送されたが、意識不明の重体となっている。事故の影響で、沖縄南インターチェンジ(IC)沖縄北ICまでの来た向け車線が6時間以上通行止めとなり、最大で12キロの重体が発生した。県警が詳しい事故原因を調べている。

県交通機動隊によると軽自動車と乗用車の追突事故が起き、軽自動車が横転。事故に気付いて停車した別の軽自動車に、曹長の車が接触した。曹長は路肩に車を止めて降り、道路上にいたところ、走行してきたキャンプ・ハンセン所属の男性二等軍曹(28)が運転する乗用車にはねられたという。横転車両の50代男性運転は軽症だった》

重体となった「米海兵隊曹長」の氏名は記事には触れていないが、ヘクトル・トルヒーニョさんである。

かたや「琉球新報」もこの事故を2日付社会面の準トップ扱いで報じた。内容はほとんど変わりない。

しかしトルヒーヨさんはなぜ、路上で後続車にはねられるという二次事故に見舞われたのか。地元2紙の記事のどこにも書かれていない。

実はトルヒーヨさんは、自身の車から飛び出し「横転車両の50代男性運転手」を車から脱出させた後、後方から走ってきた「米軍キャンプ・ハンセン所属の男性二等軍曹」の車にはねられたのだ。50代男性運転手は日本人である。

沖縄自動車道といえば、時速100キロ前後の猛スピードで車が走る高速道路だ。路上に降り立つことが、どれだけ危険だったか。トルヒーヨさんは、自身を犠牲にしてまで日本人の命を救った。男性運転手が幸いにも軽傷で済んだのも、トルヒーヨさんの勇気ある行動があったからだ。

妻のマリアさんは3日、自身のフェイスブックにこう投稿した。

「最愛の夫は28年間、私のヒーローです。夫は美しい心の持ち主で、常に助けを必要としている状況や人に直面したとき、率先して行動する人です。早朝、部下とともに訓練があるため、金曜日の午前5時高速道を走行中に事故を目撃しました。関わりのない事故だと、見て見ぬ振りして職場への道を急ぐことができました。でも主人は自分の信念を貫き、躊躇せず事故で横転した社内の日本人負傷者を車外に助け出し、路肩へと避難させました。そして私の夫は後ろから来た車にひかれてしまいました。彼のとった無我無欲で即応能力のある行動こそが真の勇敢さの表れです。私の心は今にも張り裂けそうです。主人はサンディエゴの海軍病院に搬送されました。みなさんにお願いします。どうか私の主人のためにお祈り下さい」

トルヒーヨさんは3人の子供の父である。マリアさんの夫への「思い」は世界中で反響を呼び、トルヒーヨさんの勇気ある行動を称えるとともに、回復を祈るメッセージが続々と寄せられている。日本国内でもネット上に沖縄県内外を問わず同様の声が巻き上がっている。

米第三海兵遠征軍の担当官は産経新聞の取材にこう答えた。

「海兵隊はいかなる状況であろうとも、また任務中であろうとも任務中でなかろうとも、体現される誠実や勇気、献身といった価値をすべての海兵隊員に教え込んでいる。別の運転手が助けを必要としているときに救ったトルヒーヨ曹長の行動はわれわれ海兵隊の価値を体現したものだ」

トルヒーヨさんは事故直後、沖縄本島中部の病院に運び込まれたが、米軍カリフォルニア州サンディエゴの海軍医療センターバルボアに移送され、集中治療を受けている。

沖縄の米第三海兵遠征軍の担当官によれば「海兵隊は、状況に応じて必要な治療のすべてを兵士に提供できるよう努めている。今回のケースは医療専門家が、より高いレベルの治療が可能な病院に移すことが必要だと判断された」ということだ。

むろん家族の滞在費もかさむ。米国内では有志たちがトルヒーヨさんと家族を金銭的に支援するためクラウドファンディングを立ち上げた。

身を挺して日本人を救ったトルヒーヨさんの勇敢な行動については、米CBSテレビも報じた。

翻って沖縄県のメディアはなぜ、こうも薄情なのだろうか。それでも事故後、この「報道されない事実」がネット上でも日増しに拡散されている。「続報」として伝えることは十分可能だが、目をつぶり続けているのである。

折りしもトルヒーヨさんが事故に見舞われた12月1日には、沖縄県うるま市で昨年4月、女性会社員=当時(20)=を暴行、殺害したとして殺人罪などに問われた、元米海兵隊員で軍属だったケネス・シンザト被告(33)の裁判員裁判判決公判が那覇地裁であり、柴田寿宏裁判長は無期懲役の判決(求刑無期懲役)を言い渡した。

琉球新報、沖縄タイムスともにこれを1面トップで報じ、社会面でも見開きで大きく展開した。天皇陛下が平成31年4月30日に譲位されることが決まった歴史的ニュースも1面の準トップに追いやったほどだ。

むろん極悪非道な犯罪を犯したシンザト被告は許されるべきではない。悲嘆にくれる被害者の遺族の心中を察するに余りある。しかし被告が「元米軍属」「元海兵隊員」ではなく「日本人」だったら、どうだったろう。

常日頃から米軍がらみの事件・事故が発生すると、「けしからん!」「米軍は出て行け!」と言わんばかりにことさら騒ぎ立て、米軍の善行には知らぬ存ぜぬを決め込むのが、琉球新報、沖縄タイムスの2紙を筆頭とする沖縄メディアの習性である。

かくして今回のトルヒーヨさんの美談も、シンザト被告の無期懲役判決報道にかき消され、完全に素通りされてしまった。わけても「差別」に敏感な2紙は昨今、「沖縄差別」なる造語を多用しているが、それこそ「米軍差別」でなはいか。

ちなみに今年8月5日には米軍普天間飛行場(宜野湾市)所属の輸送機オスプレイがオーストラリア沖で墜落した際、翁長雄志知事はじめ沖縄県は多分にもれず米軍を激しく非難、抗議するだけで、死亡した海兵隊員3人に対して哀悼の意向を示すことは一切なかった。

「反米軍」一色に染まる沖縄メディアも右にならえだ。翁長県政ともども、日本とその周辺地域の安全と安定のため日夜命がけで任務にあたる米軍への「敬意」を持ち得ないスタンスは、トルヒーヨさんへの無慈悲な対応でも浮かび上がる。

遅ればせながらここで初めて伝えている記者自身も決して大きなことは言えないが、トルヒーヨさんの勇気ある行動は沖縄で報道に携わる人間なら決して看破できない事実である。

「報道しない自由」を盾にこれからも無視を続けるようなら、メディア、報道機関を名乗る資格はない。日本人として恥だ。とまれ、トルヒーヨさんの一日も早い生還を祈りたい(那覇支局長 高木桂一)

次は1月30日の琉球新報の産経ニュースに対する反論記事です。

産経報道「米兵が救助」米軍が否定 昨年12月沖縄自動車道多重事故 – 琉球新報2018年1月30日11:56

昨年12月1日に沖縄自動車道を走行中の米海兵隊曹長の男性が、意識不明の渋滞となった人身事故で、産経新聞が「曹長は日本人運転手を救出した後に事故に遭った」という内容の記事を掲載し、救出を報じない沖縄メディアを「報道機関を名乗る資格はない」などと批判した。しかし、米海兵隊は29日までに「(曹長は)救助行為はしていない」と本紙取材に回答し、県警も「救助の事実は確認されていない」としている。産経記事の内容は米軍から否定された格好だ。県警交通機動隊によると、産経新聞は事故後一度も同隊に取材していないという。産経新聞は事実確認が不十分なまま、誤った情報に基づいて沖縄メディアを批判した可能性が高い。産経新聞の高木恵一那覇市局長は「当時のしかるべき取材で得た情報に基づいて書いた」と答えた。

昨年12月9日に産経新聞の高木支局長は、インターネットの「産経ニュース」で「沖縄2紙が報じないニュース」として、この事故を三千字を越える長文の署名記事で取り上げた。「日本人運転手が軽症で済んだのは曹長の勇気ある行動があったからだ」と紹介し、沖縄メディアに対し「これからも無視を続けるようなら、メディア、報道機関を名乗る資格はない。日本人として恥だ」と断じた。

同12日には産経新聞本紙でも「日本人を救った米兵 沖縄2紙は黙殺」という見出しで、曹長の回復を祈る県民の運動と共に報じている。ネットでは県内メディアへの批判が集中し、本紙にも抗議の電話やメールが多数寄せられた。

しかし海兵隊は現場で目撃した隊員の証言などから1月中旬、「(曹長は)他の車両の運転手の安否を確認したが、救助行為はしていない」と回答。県警交通機動隊によると、事故で最初に横転した車の運転手は当初「2人の日本人に救助された」と話していたという。

海兵隊によると、曹長は意識を回復しリハビリに励んでいるという。産経ニュースはその後、曹長の回復や事実確認については報じていない。

批判を受けて琉球新報は高木支局長に(1)どのように事実確認をしたのか(2)県警に取材しなかったのはなぜか(3)沖縄メディアには取材したのか – の3点を質問した。高木支局長は23日の取材に応じ「当時のしかるべき取材で得た情報に基づいて書いた」と答えた。

・海兵隊、投稿を訂正/「誤った情報の結果」

事故は昨年12月1日午前4時50分ごろ、沖縄市知花の沖縄自動車道北向け車線で発生した。最初の左側の車線で追突事故が発生し軽自動車が横転した追突現場の後方で停車した別の車に曹長の運転する車が接触し、さらに後ろから米軍の貨物車が衝突した。その後、後方から追い越し車線を走ってきた米海兵隊員の運転する乗用車に、路上にいた曹長がはねられた。

米海兵隊第3海兵兵站群の英語ホームページ記事によると、曹長は接触事故後に現場にいた別の隊員に近づき無事を確認した後「自分の車を動かすよ」と言って離れた直後にはねられたという。

在日米海兵隊のツイッターでは12月、曹長へ回復を祈るメッセージを送る県民の運動について発信する際に「多重事故で横転した車から県民を救出した直後に車にひかれ」と、救助したと断定した書き方をしていた。その後、このツイートは「多重事故で車にひかれ意識不明の重体になった」と訂正された。

海兵隊は取材に対し、「事故に関わった人から誤った情報が寄せられた結果(誤りが)起こった」と説明している。

〈視点〉事実確認を最重視

本紙は12月2日の長官で事故の発生と曹長の男性が意識不明の重体で搬送されたことを報じた。インターネットの産経ニュースの報道後「なぜ救助を伝えないのか」という意見が本紙に多く寄せられた。

続報を書かなかった最大の理由は、県警や米海兵隊から救助の事実確認ができなかったからだ。一方で救助していないという断定もできなかった。海兵隊は、現場にいた隊員の証言から「他の車の運転手の状況を確認はしたが救助行為はしていない」と回答したが、曹長が誰かを助けようとしてひかれた可能性は現時点でも否定できない。

曹長自身も接触事故を起こしてはいるが、あくまでも人身事故の被害者であり、一時は意識不明に陥った。救助を否定することでいわれのない不名誉とならないかと危惧した。

それでも今回報道に至ったのは、産経新聞が不確かな「救助」情報を前提に、沖縄メディアに対して「これからも無視を続けるようなら、メディア、報道機関を名乗る資格はない。日本人として恥だ」と書いたことが大きい。産経新聞の報道が純粋に曹長をたたえるだけの記事なら、事実誤認があっても曹長個人の名誉に配慮して私たちが記事内容をただすことはなかったかもしれないが、沖縄メディア全体を批判する情報の拡散をこのまま放置すれば読者の信頼を失いかねない。

曹長の回復を願う家族の思いや県民の活動は尊いものだ。しかし、報道機関が報道する際には、当然ながら事実確認が求められる。最初に米軍側が説明を誤った可能性を差し引いても、少なくとも県警に取材せずに書ける内容ではなかったと考える。

産経新聞は、自らの胸に手を当てて「報道機関を名乗る資格があるか」と問うてほしい。(本紙社会部・沖田有吾)

両記事を併記してチェックすると、必要以上に沖縄メディアを刺激した産経の記事に対して琉球新報側は冷静に対処していることが分かります。仮に産経側が曹長の美談?を淡々と報じていたならば、今回のような大騒動にはならなかったでしょう。現に琉球新報側も「産経新聞の報道が純粋に曹長をたたえるだけの記事なら、事実誤認があっても曹長個人の名誉に配慮して私たちが記事内容をただすことはなかったかもしれないがと記載しています。ぐうの音も出ないほどの正論です。

だがしかし琉球新報の反論後、産経新聞は迅速に対応して乾正人産経新聞社執行役員東京編集局長名で謝罪し、それを受けて沖縄2紙(沖縄タイムス、琉球新報)も編集局長名義で産経側の謝罪に理解を示したことはよかったと思います。実は今回の案件における産経側の対応はトラブルシューティングの見本ともいえる素晴らしいもので、それゆえに沖縄メディア側もその対応を評価したであろうし、何より結果として高木支局長を守ることができたのが大きいです。

今回の案件はネット上における情報の取り扱いの難しさを実感させるものでした。では常日頃情報の洪水に晒されている現代人はどのように対処すればいいのでしょうか?それは「~である」ことと「~であると言っている」ことの区別を厳密にすることになるかと思われます。今回の産経の記事はこのあたりの区別があいまいになってしまい、結果として誤報になってしまった感じです(当初の米海兵隊への取材で裏づけできたと判断したのかもしれません)。

それと必要以上に相手を攻撃あるいは刺激しているなと感じた情報は、いったん内容を疑ったほうがいい。この点が今回の案件の一番の教訓かもしれません。ブログ主も今後文章作成における貴重な教訓として肝に銘じて、当ブログを運営管理していく次第であります(終わり)。

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