沖縄2紙は今回の衆院選をどのように伝えたか

10月22日に行われた第48回衆議院議員総選挙は、ご存知の通り自民・公明の与党が313議席(総議席数465)を獲得する結果となりました。与党圧勝の結果を受けて、我が沖縄の地元紙(沖縄タイムス、琉球新報社)はこの結果をどのように伝えたか、社説を比較してみました(残念ながら10月23日の琉球新報の社説は確認できませんでした)。

1023日 沖縄タイムス社説 衆院選沖縄戦区 反辺野古 民意揺るがず

第48回衆院選は22日、投開票された。希望の党の突然の旗揚げと失速、民進党の合流と分裂。振りかえってみればそれがすべてだった。今回ほど政治家と政党に対する不信感が広がった国政選挙はない。その責任は重大である。自民党が圧勝した全国と比べ、県内の選挙結果は対照的だ。名護市辺野古沿岸部への新基地建設に反対する「オール沖縄」の候補が1,2,3区で比例復活組の自民前職を振り切った。前回2014年の衆院選に続く「オール沖縄」の勝利は、安倍政権の基地政策や強引な国会運営に対する批判にとどまらない。不公平な扱いに対する強烈な意義申し立てが広く県民の間に共有されていることを物語っている。とりわけ象徴的なのは、大票田の那覇市を抱える1区は、共産前職の赤嶺政賢氏(69)が接戦の末に自民、維新の前職らを制したことだ。共産党候補が小選挙区で当選したのは全国で沖縄1区だけである。翁長雄志知事のお膝元での勝利は知事の求心力を高めることになるだろう。

1区の選挙情勢は、赤嶺氏にとっては、マイナスの要素が多かった。高齢者に比べ若者には基地容認の傾向があること、保守層の中に根強い共産党アレルギーが存在すること、「オール沖縄」の一翼を担ってきた那覇市議会の新風会が割れたこと、などである。1月の宮古島市、2月の浦添市、4月のうるま市の市長選で「オール沖縄」系候補が立て続けに敗れたことも、退潮傾向を印象づけた。マイナスの要因を抱えながら、「オール沖縄」が1,2,3区の議席を死守することができたのはなぜか。普天間飛行場など多くの米軍基地を抱える2区では、社民前職のベテラン照屋寛徳(72)が早々と当選を決め、北部の演習場が集中する3区では、無所属前職の玉城デニー氏(58)が当選を決めた。いずれも危なげない勝利だった。名護市安部で起きたMV22オスプレイの大破事故と、東村高江で起きた米軍ヘリCH53Eの炎上事故は、いずれも民間地で発生した「クラスA」の重大事故だった。沖縄ではヘリ事故はどこでも起こりうる、という現実が浮き彫りにされたのである。安倍晋三首相は、北部訓練場の約半分の返還を負担軽減の大きな成果だと主張するが、住民の苦境を考慮しない一面的な見方である。訓練場の「不要な土地」を返還する条件として、東村高江の集落を取り囲むように、6カ所のヘリパッドが建設された。周辺住民からすれば基地被害の増大にほかならないのである。

県議会は高江周辺のヘリパッドの使用禁止を全会一致で決議した。当選した議員は、県議会とも共同歩調を取って政府と米軍に働きかけてほしい。大事なことは、選挙公約を選挙の時だけの話に終わらせないこと、選挙で公約したことを軽々に破らないことだ。台風21号の影響で一部離島から投票箱を開票所まで移送することができなくなり、うるま市、南城市、座間味村の3市村は開票作業を23日に持ち越した。異例の事態である。公職選挙法第65条は「開票は、すべての投票箱の送致を受けた日、またはその翌日に行う」と規定している。うるま市の津堅島、南城市の久高島、座間味村の阿嘉島と慶留間島で投票箱の移送が不可能になったことから、これら3市村の開票作業が翌日に延びたというわけだ。4区は無所属前職の仲里利信氏(80)と自民前職の西銘恒三郎氏(63)が激しく争っている。大票田の南城市の開票作業が翌日に延びたため、午前零時半になっても当落の判定ができない、という事態が生じてしまった。台風の対応が適切だったかどうか、県選挙管理委員会をまじえて早急に対応を検証し、台風マニュアルを整備してもらいたい。

1024日 沖縄タイムス社説 衆院選 自民大勝 「白紙委任」していない

衆院選は自民、公明両党が3分の2の議席を得て、安倍政権の継続が決まった。自民党が単独で国会運営を主導できる絶対安定多数を確保し、与党で憲法改正の発議に必要な議席を上回ったのは、大勝といっていい。しかし背景をつぶさに見ていくと、安倍政権の評価に対するねじれが浮かぶ。共同通信が実施した出口調査で、安倍晋三首相を「信頼している」の44.1%に対し、「信頼していない」は51.0%に上った。報道各社の世論調査でも、安倍内閣は不支持の方が高い傾向にあり、首相の政治姿勢には厳しい目が向けられている。自民党内から「おごりや緩みだけでなく、だんだん飽きられてきた」(小泉進次郎筆頭副幹事長)、「政権が全面的に信任されたという評価はくだしにくい」(石破茂元幹事長)との声が聞こえてくるのは、それを裏付けるものだ。一方、今回の政権継続の審判は、野党自らが招いた「オウンゴール」の側面もある。野党第1党だった民進党の分裂。小池百合子代表の「排除の論理」で失速した希望の党。バラバラで頼りない野党に政権は託せないという消極的な支持が与党に集まったのだ。衆院選から一夜明けた23日、安倍首相は公明党の山口那津男代表と会談し、憲法改正論議など連立政権が進める主要政策で合意した。選挙で安倍政治の全てが信任されたと思ったら大間違いだ。まして選挙中ほとんど語られなかった改憲を「白紙委任」などしていない。

5年近くに及ぶ「安倍1強政治」が、衆院選の大きな争点だった。憲法観や安全保障政策で自民党と違いが不鮮明な希望の党に対し、安倍政権との対立軸を鮮明にした立憲民主党が野党第1党に躍進した意義は大きい。枝野幸男元官房長官らがわずか20日前に旗揚げした党が、公示前の3倍以上の54議席を獲得し、政権批判票の受け皿として一定の役割を果たしたのだ。希望の党の合流を巡り、小池代表の「排除」であぶり出された民進党出身のリベラル系議員を中心にしてできた党である。信念を曲げずに立ち上がった枝野氏らの姿と、「政治は、政治家のためでも政党のためでもなく、国民のためにある」との訴えが有権者の心にひびいたようだ。立憲主義が壊されていくことへの危機感も大きかったのだろう。

とはいえ立憲民主は1955年以降で最小勢力の野党第1党となる。異常な勢力構成である。1人の当選者以外の票が「死に票」になる小選挙区では、与野党が「1対1」で対決する構図を広げなければ、巨大与党には太刀打ちできない。安倍1強のおごりを招いた責任の一端は、受け皿になりきれなかった野党にある。民主主義を健全に機能させるためにも、安倍政権に対抗しうる勢力を築き上げなければならない。

1024日 琉球新報社説 自公3分の2 大政翼賛政治を危惧する 

森友、加計学園の「疑惑隠し解散」「説明責任なきリセット解散」と言われた衆院選は自民党の圧勝で終わった。

自民、公明両党の議席は自民の追加公認を合わせて定数465の3分の2(310)を超え、憲法改正の国会発議も可能になる。しかし、比例代表の得票率を見ると、立憲民主党と希望の党を足せば自民を上回る。民進党分裂が自民圧勝を後押ししたようなもので「安倍1強」は強固ではない。政権が信任されたとして、再び強引な政権運営をすれば、たちまち求心力を失うだろう。

選挙の結果、希望の党と日本維新の会を合わせると改憲勢力が国会全体の約8割を占めることになった。これまで安倍政権下で審議された一連の重要法案は、熟議をせず数の力で成立させてきた。特定秘密保護法、「共謀罪」法、安保関連法しかりである。改憲論議を性急に進めてはならない。

衆院選前に共同通信が実施した全国電話世論調査は、安倍晋三首相の下での改憲への賛否では反対51.0%、賛成33.9%だった。投票で最も重視する点は「年金や少子化対策など社会保障」29.7%、「景気や雇用など経済政策」16.3%、「安全保障や外交」15.5%と続いた。「憲法改正」は8.93%である。

小選挙区制度は当選者が1人で、第1党に有利な仕組みだ。多くの選挙区で野党候補が競合し、政権に対する批判票が分散したことが自民党に有利に働いたのは間違いない。民進党は選挙に勝てないと見て事実上解党した。議会政治の野党の役割を放棄したに等しい。

このため今回は「自民・公明」「希望の党・日本維新の会」「共産・立憲民主・社民」の3極による対決の構図になった。「自民・公明」は3極対決のうち8割の選挙区で勝利している。1本化して1対1の構図に持ち込めなかった野党の責任は重い。

さらに台風の影響で投票に行かなかった有権者は無党派層が多いと見られる。組織力が弱く無党派頼みの新党に比べ、組織票を持つ自民、公明には投票率が下がるほど追い風になったのだろう。

8月の内閣改造後の記者会見で安倍首相は「深く反省し、国民の皆さまにおわび申し上げたい」「国民の皆さまの声に耳を澄ます」と述べた。しかし、臨時国会冒頭で所信表明演説をせず、野党の質問も受け付けず、一方的に衆院を解散した。

今回も衆院選後の会見で「今まで以上に謙虚で真摯な政権運営に努めたい」と述べた。この言葉を100%信じる国民が、どれだけいるだろうか。

現憲法が体現してきた戦後の平和民主国家の歩みが揺らいでいる。戦前のような大政翼賛政治にならないように、主権者である国民は政治に目を光らせる不断の努力が求められる。

10月23日の沖縄タイムスの社説は、何を言っているのか分かりにくい文章の典型例ですが、24日の両紙の社説はさすがにキレイにまとめてきたなという印象です。そして共通点があります。それは

一 改憲という文言が多く使われていること。

一 北朝鮮という文言が使われていないこと(極東有事について触れていない)。

一 世論調査や出口調査の数値を引用して、選挙結果がすべてではないことを強調していること。

になります。選挙結果を認めたくない、特に「改憲」はもっての外という意思がひしひしと伝わってきます。何よりも自民党に投票した有権者への配慮が一切感じられない内容になっていて、ブログ主は不快感を覚えざるを得ません。ハッキリ言えば「改憲をもくろむ自民、公明へ投票した有権者はバカだ」と婉曲的に表現しているようなもので、公平・中立の立場のカケラは微塵もありません。

選挙結果は、違法行為が認められる場合を除き、どのような結果が出ようが尊重しなければなりません。それが近代デモクラシーのルールで、「今回の選挙結果はおかしい」などと唱えるのは民主主義の精神に背く行為です。そのような行為を世間では「負け犬の遠吠え」と呼びます。ちなみに昭和44年(1969)に沖縄タイムス社が発行した『沖縄年鑑』には下記のように社是・編集綱領が明示されていました。読者のみなさん、昨今の報道と比較して本当に社是や編集綱領の精神が貫かれているか、考察されてみてはいかがでしょうか(終わり)。

・昭和44年(1969)発行 沖縄年鑑

〈社是〉

一 沖縄タイムスは、言論の自由、責任、公正、気品を堅持する

一 沖縄タイムスは、民主主義に則り文化社会の建設を推進する

一 国際信義に基づき、世界平和の確立に寄与する。

〈編集綱領〉

一 報道、論評の自由を堅持すると同時に、これに伴う責任を正しく遂行する

一 報道は常に真実、迅速を旨とし、いかなる権力、圧力にも屈せず公平を期す

一 論評は、あくまで不偏不党、中正を持し正しい世論を代表する

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