”狙われたドン”(3)/ 動機

主犯格の糸数真(27)=旭琉会富永一家幹事=は、逮捕された10日夜、捜査陣の調べに対して「多和田(会長)が憎くて殺した」と何度も繰り返した。

「なんで憎くなったのか?」

「真山(会長)が旭琉会の会長になって、ことし初めごろからあまりにワンマンで横暴で威張りくさって、自分勝手すぎたのでどんどん不満がつのり、このままでは、と思うようになって殺した」と犯行の動機を語った。

捜査本部では、この自供に対し「とてもこの自供は信じられない。まさか、こんな単純な動機なんて…何か隠しているフシがある」と判断し、さらに問い詰めたが、今のところこれ以上のことは出てこない。

ワンマンなので殺した/ 上納金制度への不満

だが、これには背景があった。いわゆる30万円を毎月、会長に上納する制度に対する不満、多和田会長が島割り制度を力ずくで実施したことに対するくすぶり – などだ。

確かに、背後で糸数を動かしたのは、こうした客観的な事実も指摘できよう、しかし、これだけでは、なぜ糸数が犯行を実行しなければならなかったか – という具体面は説明出来ない。

組員の多くが新制度に不服の感情を持っていた、といわれる。

だが、なぜ糸数がやったか –

「これには複雑な個人的な感情が先行していたようだ」と捜査陣はいう。

不満組の中で糸数が聞いた会長のうわさはあまり良くなかった。

「多和田は、幹部が逮捕されて、刑務所に入っても見舞いをするどころか、ののしっている」

「対立抗争の時に身をもって会長を守ってやった幹部のことを悪者呼ばわりしてはばからない」。捜査員によると、かなり汚い言葉だったという。

こうしたうわさ話が、事実かどうかは別にして、これを聞かされた糸数らは、きっとムッとなったろう – ことは想像できる。

その上、自分たちの「島」にやって来て連日飲み歩いて

「威張りくさっている」

犯行の決意はかなり以前から固められ計画を練っていたと捜査員はみている。

事件は偶然でも、突飛な出来事でもない。じわじわと犯行の決意が高ぶり、10日夜の2発の銃弾で決着をつけた。

だが、なぜ糸数でなければならなかったのだろうか…個人的な憎しみの感情があったにせよ糸数が殺すには、命令あるいはそれに似た何かがなかったのだろうか。

犯行後にあれほど心配された内部抗争の動きがほとんど見られないというのは、単に県警の警戒が厳しいだけからか。

「14の一家の内8つの家が富永一家側についたからだ」という見方もある。(昭和57年10月13日付琉球新報13面)

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