琉球共和社会憲法C私(試)案 – 全文

今回は昭和56(1981)年5月15日起草、そして『新沖縄文学 6月号(48)』に掲載された、「琉球共和社会憲法C私(試)案」の全文を掲載します。なお解説(という名の突っ込み)は後日改めて述べることにして、先にこの私案が起草された背景について説明します。

この私案は『新沖縄文学』の特集企画「琉球共和国のかけ橋」というお題目で8人の出席者による(匿名)座談会が開かれ、そのために川満信一さんが起草したという流れになります。なぜC私(試)案の名称がつけられたか、それはおそらく川満さんが匿名座談会にC(共和社会憲法起草者・詩人)で出席していたからと思われます。

ちなみに座談会の趣旨は

B(ジャーナリスト) もともとこの企画は、復帰10周年をむかえる現在の状況の中で、単なる復帰10年の総括風のものをやっても意味があるとは思えない、そこで現在の否定的な状況に対置する一つのアンチテーゼとして、しからば“こうありたい”というような“願い”なり、“思い”なりを膨らみのあるイメージの中で展開してみようというところから出発しています。その具体的なものとして「琉球共和国」というイメージを想い描きながら、その中で現状に対するアンチの視点を提起しよう、ということです。

になり、その影響かC私(試)案は(現代の沖縄県民から見ると)ぶっとんだ内容に仕上がっています。そのためこの私案の読むにあたって

1.この私案は現代の中央集権的な国家を超えた、新しい社会のイメージを提供する目的で作成されたこと。

2.新しい社会は一つの理念の下に結集した共同体を想定していること。その理念は人々が共通に持つ(であろう)“慈悲”の概念で、それを明文化したものが「琉球共和社会憲法C私(試)案」であること。

3.それゆえに、この憲法は「自然法」としての扱いになること。この点がこの私案の最大の特徴で、ブログ主が一番度惑ったところです。

あたりを念頭に置けば、ある程度起草者の考えを理解できるのではと思いたいです。では早速ですが全文をご参考ください。


一、琉球共和社会の全人民は、数世紀にわたる歴史的反省と、そのうえにたった悲願を達成し、ここに完全自治社会建設の礎を定めることを深くよろこび、直接署名をもって「琉球共和社会憲法」を制定し、公布する。

全人民署名(別紙)

(前文)

浦添に驕るものたちは浦添に滅び、首里に驕るものたちは首里によって滅んだ。ピラミッドに驕るものたちはピラミッドによって滅び、長城に驕るものたちもまた長城によって滅んだ。軍備に驕るものたちは軍備によって滅び、法に驕るものたちもまた法によって滅んだ。神によったものたちは神によって滅び、人間によったものたちは人間によって滅び、愛によったものたちは愛に滅んだ。

科学に驕るものたちは科学によって滅び、食に驕るものたちは食によって滅ぶ。国家を求めれば国家の牢に住む。集中し、巨大化した国権のもと、搾取と圧迫と殺りくと不平等と貧困と不安の果てに戦争が求められる。落日に染まる砂塵の古都西域を、あるいは鳥の一瞥に鎮まるインカの都を忘れてはならない。否、われわれの足はいまも焦土のうえにある。

九死に一生を得て廃墟に立ったとき、われわれは戦争が国内の民を殺りくするからくりであることを知らされた。だが、米軍はその廃墟にまたしても巨大な軍事基地をつくった。われわれは非武装の抵抗を続け、そして、ひとしく国民的反省に立って「戦争放棄」「非戦、非軍備」を冒頭に掲げた「日本国憲法」と、それを遵守する国民に連帯を求め、最後の期待をかけた。結果は無残な裏切りとなって反ってきた。日本国民の反省はあまりにも底浅く淡雪となって消えた。われわれはもうホトホト愛想がつきた。

好戦国日本よ、好戦的日本国民と権力者共よ、好むところの道を行くがよい。もはやわれわれは人類廃滅への無理心中の道行きをこれ以上共にはできない。

第一章

(基本理念)

第一条  われわれ琉球共和社会人民は、歴史的反省と悲願のうえにたって、人類発生史以来の権力集中機能による一切の悪業の根拠を止揚し、ここに国家を廃絶することを高らかに宣言する。この憲法が共和社会人民に保障し、確定するのは万物に対する慈悲の原理に依り、互恵互助の制度を不断に創造する行為のみである。慈悲の原理を超え、逸脱する人民、および調整機関とその当職者等のいかなる権利も保障されない。

第二条 この憲法は法律を一切廃棄するための唯一の方法である。したがって軍隊、警察、固定的な国家的管理機関、官僚体制、司法機関など権力を集中する組織体制は撤廃し、これをつくらない。共和人民社会は個々の心のうちの権力の芽を潰し、用心深くむしりとらねばならない。

第三条 いかなる理由によっても人間を殺傷してはならない。慈悲の戒律は不立文字であり、自らの破戒は自ら裁かなければならない。法廷は人民個々の心の中に設ける。母なるダルマ、父なるダルマに不断に聴き、慈悲の戒律によって、社会および他人との関係を正さなければならない。

第四条 食を超える殺傷は慈悲の戒律にそむく。それ故に飢えをしのぎ、生存するための生物植物動物の捕殺は個人、集団を問わず、慈悲の内海においてのみなされなければならない。

第五条 衆議にあたっては食まずしいものたちの総意に深く聴き、慈悲の海浅いものたちに聞いてはならない。

第六条 琉球共和社会は豊かにしなければならない。衣も食も住も精神も、生存の全領域において豊かにしなければならない。ただし豊かさの意味をつねに慈悲の海に問い照らすことを怠ってはならない。

第七条 貧困と災害を克服し、備荒の策を衆議して共生のため力を合わさなければならない。ただし貧しさを怖れず、不平等のつくりだすこころの貧賤のみを怖れ忌避しなければならない。

第二章

(センター領域)

第八条 琉球共和社会は象徴的なセンター領域として、地理学上の琉球弧に包括される諸島と海域(国際法上の慣例に従った範囲)を定める。

(州の設置)

第九条 センター領域内に奄美州、沖縄州、宮古州、八重山州の四州を設ける。各州は適切な規模の自治体で構成する。

(自治体の設置)

第十条 自治体は直接民主主義の徹底を目的とし、衆議に支障をきたさない規模で設ける。自治体の構成を民意と自然条件および生産条件によって定められる。

(共和社会人民の資格)

第十一条 琉球共和社会の人民は、定められたセンター領域内の居住者に限らず、この憲法の基本理念に賛同し、遵守する意志のあるものは人種、民族、性別、国籍のいかんを問わず、その所在地において資格を認められる。ただし、琉球共和社会憲法を承認することをセンター領域内の連絡調整機関に報告し、署名紙を送付することを要する。

(琉球共和社会象徴)

第十二条 琉球共和社会の象徴は、愚かしい戦争の犠牲となった「ひめゆり学徒」の歴史的教訓に学び、白一色に白ゆり一輪のデザインとする。

(不戦)

第十三条 共和社会のセンター領域内に対し、武力その他の手段をもって侵略行為がなされた場合でも、武力をもって対抗し、解決をはかってはならない。象徴旗をかかげて、敵意のないことを誇示したうえ、解決の方法は臨機応変に総意を結集して決めるものとする。

(領域立ち入りと通貨)

第十四条 共和社会センター領域内に立ち入り、あるいは通過する航空機、船舶などはあらかじめ許認可を要する。許認可の条件は別に定める。軍事に関連する一切の航空機、船舶その他は立ち入りおよび通過を厳禁する。

(核の禁止)

第十五条 核物資および核エネルギーの移入、使用、実験および核廃棄物の貯蔵、廃棄などについては今後最低限五十年間は一切禁止とする。とくにこの条項はいかなる衆議によっても歪曲解釈されたり、変更されてはならない。

(外交)

第十六条 琉球共和社会は世界に開かれることを基本姿勢とする。いかなる国や地域に対しても門戸を閉ざしてはならない。ただし軍事に関する外交は一切禁止する。軍事協定は結ばない。平和的な文化交流と交易関係を可能な限り深めることとする。

(亡命者、難民などの扱い)

第十七条 各国の政治、思想および文化領域にかかわる人が亡命を受け入れを要請したときは無条件に受け入れる。ただし軍事に関係した人間は除外する。また、入域後にこの憲法を遵守しない場合は、当人の希望する安住の地域へ送り出す。難民に対しても同条件の扱いとする。

第三章

(差別の撤廃)

第十八条 人種、民族、身分、門中、出身地などの区別は考古学上の研究的意味を残すだけで、現実の関係性においては絶対に差別をしてはならない。

(基本的生産手段および私有財産の扱い)

第十九条 センター領域内では、土地、水源、森林、港湾、漁場、エネルギー、その他の基本的生産手段は共有とする。また、共生の基本権を侵害し、圧迫する私有財産は認めない。

(居住および居住地の扱い)

第二十条 家屋の私有は基本的に認めない。過渡的措置として先住権のみを定められた期間保障し、居住していない家屋および居住地の所有権は所属自治体の共有とする。法人格所有の建造物は公有とする。居住地内の土地の利用は憲法の理念に反しない範囲で自由とする。

第二十一条 居住地および住居は生産関係に応じて、個人、家族、集団の意志と、自治体の衆議における合意によって決められる。

(女・男・家族)

第二十二条 女性と男性の関係は基本的に自由である。ただし合意を前提とする。夫婦はこの憲法の基本理念である慈悲の原理に照らして双方の関係を主体的に正すことを要する。夫婦のいずれか一方から要請がある場合は、自治体のえい智によってこれを解決する。女・男における私的関係はいかなる強制も伴わない。夫婦および家族の同居、別居は合意に基づくことを要する。

(労働)

第二十三条 共和社会の人民は児童から老人まで、各々に適した労働の機会を保障されなければならない。労働は自発的、主体的でなければならない。主体的な労働は生存の根本である。

第二十四条 労働は資質と才能に応じて選択し、自治体の衆議によって決められる。

第二十五条 労働が自己の資質において不適だと判断した場合は、自治体の衆議にはかって、自発的、主体的にできる労働を選択することができる。

第二十六条 労働の時間は気候風土に適するよう定める。娯楽は労働の一環であり、創意と工夫によって、人類が達成したあらゆる娯楽を人民が選択できるよう自治体、州、共和社会のレベルで機会をつくる。娯楽の享受は平等でなければならない。

(信仰・宗教)

第二十七条 過渡的措置として、信教は個人の自由である。ただし、自治体の衆議で定められた共働、教育方針などには従わなければならない。

(教育)

第二十八条 基礎教育は十年間とし、自治体および州の主体的方法にゆだねる。基礎教育は一定の生産活動への実践参加を含める。

第二十九条 特別な資質と才能を必要とする教育は、自治州および共和社会総体の積極的協力によって十分に行わなければならない。専門教育の期間は定めない。入試制度は廃止し、代わりに毎年試験で進級を決める。

第三十条 共和社会以外の国または地域で教育を受ける必要がある場合は、自治体、州、共和社会全体の推挙によって人選を決める。

第三十一条 すべての教育費用は共和社会の連絡調整機関でプールし、必要に応じて、均等に配分される。

第三十二条 共和社会の人民は、個々の資質と才能を適切に、十二分に伸ばさなければならない。ただし、資質と才能および教育の差によって、物質的富の分配に軟差を求め、あるいは設けてはならない。

(専門研究センター)

第三十三条 各州に専門教育センターを最低一か所設置する。さらに共和社会として高度の専門研究総合センターを設ける。研究員は、各州の専門教育センターの推挙で決める。

第三十四条 各州の専門教育センターおよび共和社会の専門研究総合センターにおいては、教授と研究生が一体となって、半年毎に研究成果をリポートにまとめ、連絡調整機関へ提出することを要する。

(研究の制限)

第三十五条 総合研究センターにおける研究は基本的に自由であるが、生殖動物、物質などを研究対象とし、技術と関連する自然科学領域の研究は、この憲法の基本理念である慈悲の戒律を破らない、と各衆議によって認められた範ちゅうを逸脱してはならない。

(城際間研究の重視)

第三十六条 すべての生産、経済、社会的行為および諸科学の研究にあたっては、自然環境との調和を第一義とする。過渡的な対策として、個別分野の伸展、研究深化よりも城際間の相互調整研究に重点をおかなければならない。

(医師・専門技術者への試験)

第三十七条 医師その他専門技術職にあたるものは、三年に一回、共和社会の機関が課す資格試験を受けなければならない。

(終生教育)

第三十八条 共和社会の生産をはじめとする諸組織は終生教育の機関であり、人民はつねに創意をもって学び、自己教育に努めなければならない。

(知識・思想の自由)

第三十九条 知識・思想の探求は人民個々の資質と才能の自然過程であり、従って自由である。ただしその蓄積をもっていかなる権力も求めてはならず、与えてもならない。知識・思想の所産は社会へ還元していかねばならない。

(芸術・文化行為)

第四十条 芸術および文化的所産は共和社会におけるもっとも大事な富である。芸術および文化の領域における富の創造と享受はつねに社会的に開かれていなければならない。創造過程における非社会的な観念領域の自由は抑制したり、侵害してはならない。ただし、社会に還元された所産についての批判は自由である。

(情報の整備)

第四十一条 情報洪水は人間の自然性の破壊につながる。専門研究総合センターでは情報を整備し、憲法の理念にそうよう絶えず努めなければならない。

第四章

(衆議機関)

第四十二条 自治体、自治州、共和社会は直接民主主義の理念からはずれてはならない。衆議を基礎として、それぞれの組織規模に適切な代表制衆議機関を設ける。ただし代表制衆議機関は固定しない。衆議にあたっては勢力争いを禁止し、合意制とする。代表制衆議機関で合意が成立しない場合は、再度自治体の衆議にはかるものとする。

(政策の立案)

第四十三条 各自治体はそれぞれの地域に応じた生産その他の計画を立案し、実施する場合、隣接自治体にもあらかじめ報告し、調整することを要す。その計画が自治体の主体的能力の範囲を超える場合は所属州の連絡調整機関ないしは共和社会連絡調整機関において調整をはかったうえ、主体的に実施し、豊かな社会づくりをめざさなければならない。

(執行機関)

第四十四条 各州および共和社会に連絡調整機関を設ける。連絡調整機関の組織は専門委員会と執行部で構成する。専門委員は各自治体および州、センター領域外に居住する琉球共和社会人民(最低五人)の推挙と、州立専門教育センターおよび共和社会専門研究総合センターの推挙する専門家を州および共和社会の代表衆議機関で最終的に人選して決める。各委員会の構成は別に定める。専門委員会は城際調整を十分に行ったうえ、立案し衆議機関へ建議する。衆議機関との調整を経た政策は、専門委員会の監督のもとに執行部で実施される。城際調整を経ていない限り、連絡調整機関はいかなる政策も実施に移してはならない。

(公職の交代制)

第四十五条 公職にあたるものは専門委員を除いて、各自治体および州の衆議に基づいて推挙される。公職は交代制とする。その任期は別に定める。自治体および州の衆議によって、不適格と判断された公職者は任期中でも退任しなければならない。任期を終えた公職者の再推挙は認められる。公職者は要務以外のいかなる特権も認められず、また求めてもならない。

(条例・内法などの扱い)

第四十六条 各州および各自治体に残存する慣例、内法などはとくに慎重に吟味し、祖先たちのえい智を建設的に生かすことを要する。

(請願・公訴)

第四十七条 個人および集団がこの憲法の基本理念である慈悲の原理に照らして、不当な戒を受けたと判断する場合は、所属自治体の衆議開催を要求し、戒を解くことができる。所属自治体の衆議が分かれた場合は、近接自治体の衆議にはかり、未解決の場合は自治州の衆議にはかる。自治州の衆議が分かれた場合は共和社会の総意によって決める。

(司法機関の廃止)

第四十八条 従来の警察、検察、裁判所など固定的な司法機関は設けない。

第五章

(都市機能の分散)

第四十九条 集中と拡大化を進めてきた既存の都市的生産機能は、各州および自治体の単位に向けて可能な限り分散する。この目的を達成するために生産と流通の構造を根本的に変え、消費のシステムを再編成しなければならない。

(産業の開発)

第五十条 生態系を攪乱し、自然環境を破壊すると認められ、ないしは予測される諸種の開発は、これを禁止する。

(自然摂理の適合)

第五十一条 技術文明の成果は、集中と巨大化から分散と微小化へ転換し、共和社会および自然の摂理に適合するまで努力することを要す。自然を崇拝した古代人の思想を活かさなければならない。

(自然環境の復元)

第五十二条 すでに破壊され、あるいは破壊されつつある自然環境は、その復元に向けてすみやかに対策を講じる。各自治体は自然環境の破壊に厳密な注意を払い、主体的に復元をはからなければならない。復元にあたって、一自治体の能力を超える場合は、近接自治体とはかり、さらに州や共和社会の連絡調整機関にはかって人民の総意と協力によって目的を達成するものとする。

第六章

(納税義務の廃止)

第五十三条 個人の納税義務は撤廃する。

(備荒)

第五十四条 備荒のための生活物資は個人、集団にそれぞれ均等に配分し、それぞれの責任において蓄える。一定量を自治体および州の連絡調整機関において蓄えるものとする。いかなる組織および機関も定められた備荒用の物資の量を超えて富の蓄積をしてはならない。定量を超えた場合は供出し、交易品とする。

(商行為の禁止)

第五十五条 センター領域内における個人および集団、組織などの私的商行為は一切禁止する。共和社会人民間の流通はすべて実質的経費を基準として成立させる。

(財政)

第五十六条 財政は琉球共和社会の開かれた条件を利用して、センター領域内の資源を生かし、またセンター領域外の共和社会人民と合携えて、従来の国家が発想し得なかった方法を創造しなければならない。

ここに定められた理念、目的、義務を達成するため、琉球共和社会人民は献身的な努力と協力をはかる。(初出:「新沖縄文学」81年6月号)

【コメント】

・1980年代のバブル期へ向かう情況的思索もあってこの試案をまとめることになったが、いまとなっては条文中に手を入れたい箇所が幾つかある。しかしあくまで本書のための叩き台としての草案であり、あえて訂正しない。

・最近の憲法改悪の動静に対し、統治機関に委任するのではなく、自由民権運動のころの草の根憲法起草運動に学び、国民総意の民衆主体憲法案を競合させることが必要ではないだろうか。

・自然法としての憲法と、実定法とは厳密に区別されなければならない。その点、この私試案には実定法的条項が混在しており、削除整理を要する。(2014年2月 川満信一)

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